厄介事
「おいおい、この魔物はどこから湧いてきてるんだ?」
マーナは一般市民を傷つけようとする魔物を倒しながら叫んだ。
「街には結界があるな。おそらくゲートでも使ってるんじゃないかな」
「術師か…」
空間を操り、場所と場所を繋げる魔法『ゲート』。この魔法は発動している間ずっと詠唱を唱えなければならず、発動している間は無防備になってしまう。
「セイタは術師を探してくれ、あたいは一般市民の誘導して、終わったら手伝う」
「分かりました」
「くれぐれも気をつけなよ。攻めなくも居場所だけでも突き止めてくれたらいいから」
術師がいる場合、無防備になっている術師を守るために強力なのが守っている場合が多い。今回でいうと幹部が守っている可能性が高い。
「まぁやれるだけやってみるよ」
新川はそう言って走っていった。
「マーナ殿!」
騎士の一人が民衆の護衛から離れてやって来た。
「どうした?」
「他の隊から連絡がありまして、ここら一帯に結界が張られていてこの街から出ることが出来ないそうです!」
「な、なんだって!」
「ど…どうしましょう」
「………教会を頼ろう。避難民は教会へ、貴族の方達は王宮にでもお願いしましょう。避難が終わったら騎士団は二手に別れて教会、王宮の護衛に付いて!」
「分かりました!」
だんだん魔物の数が増えてきている。なんとか早急に対処しなければならない。
(頼む、セイタ早くしてくれ)
「クソっ…!どこだっ!」
新川は走り回って怪しい場所を探す。その間にもどんどんと魔物が増えていって、戦っても戦ってもキリが無くなってきている。
「……落ち着こう」
新川は闇雲に探しても見つからないと判断して、一度心を落ち着かせた。
(まずは状況整理からだ)
新川は戦闘から離れて、建物を登って上からその景色を見た。色々な場所から魔物が溢れ出してきている。遠くから眺めると悲惨さがより鮮明に映る。
(どこか怪しいところは……ん?)
1つの建物が新川の目とまった。そこからは魔物は出てきていない。が、どこか引っ掛かる。
(……どこか不自然な気がする。…もしかしてあそこの周りからは魔物が出ていないのか?)
他の建物や、地面からは魔物が湧き出ているがそこの周りからは不自然なほど何も湧き出ていない。
(もしかして…)
新川は建物の上を通ってその怪しい場所に向かう。
「やっぱり…怪しい」
上から入ったがやはり何かおかしい。余りにも静かすぎる。
一瞬応援を呼ぶか考えたが、まだ確信があるわけではないので、一人で調べることにした。
ゆっくり慎重に階段を降りて一つ一つ確認していく。
「やっぱり…地下か…」
恐る恐る足を踏み入れる。
「……ッ!」
少し進んだ先に明らかに地下室とはことなる掘られた場所があった。
やはりこの近くに術師がいる。
(応援を呼ぶか…?いや、一度この目で見てみないと)
新川はまたゆっくりと歩みだした。
そして、ある部屋にたどり着いた。
「はぁ……退屈なもんだな。俺も戦闘班にいきゃあ良かった」
部屋を覗くと図体がデカく屈強な魔人と魔法を唱えている術師がいた。そして、部屋の中心には大きな穴が空いており、そこにゲートが出現していた。
(ビンゴ!)
やはりここから魔物が出てきていたのだ。
(問題はあの魔人か…)
術師はゲートの魔法に集中しているため攻撃は出来ないはず。だから、多分あの魔人が護衛でかなり強い筈だ。
(不意打ちならいけるか…?最悪あの魔法を途切れさせればいい)
「『岩の手』」
部屋の中の壁から岩の拳が生まれ、それが振り下ろされる。新川は土属性の魔法の使い手。岩や土を自在に操ることができる。
砂埃が舞い、中がどうなっているのか見えない。
(やったか?ーーいや)
未だにゲートの光が見えた。つまり、
「危ねーな。イキナリ術師狙うとか」
魔人が身を挺して護ったのだ。
(…くっ!一旦引くか)
この場から逃げ出そう背を向けた瞬間、前方の壁が崩れ落ちた。
「なっ!」
「チッなんだ紛れ込んだ鼠は一匹だけかよ」
崩れた壁から出てきたのは先程の魔人であった。
「まぁ、暇つぶしに俺を愉しませてくれよ!」