勇者
「お待たせしました、特別ゲストを紹介します!最強と謳われる〈聖剣〉の勇者アルマさんです!」
大歓声の渦の中一人の男が会場の真ん中にやって来る。彼こそ〈聖剣〉の勇者、アルトだ。
「凄い歓声だね」
美咲は歓声の大きさに圧倒される。今回、龍生祭のゲストとして三人の勇者が、迎い入れられた。二人はこちらのパーティーから、もう一人はもう一つのパーティーからだ。
続いて、〈魔女〉の勇者のキルラも呼ばれて出ていく。
「…私も出ていっていい?」
歓声の中歩いていくアルマやキルラを見て琴音が言った。
「だめ、私達はお留守番だからね」
「すみません、」
後ろからアリアがやって来て謝る。
「どこに魔の手が潜んでいるか分からないので。すみません、今回のように勇者様だけお披露目という形になってしまって」
アリアは深く頭を下げた。
「い、いえ、そんな!頭を上げてください。こんな素晴らしい祭に招待頂いただけで満足ですし」
美咲は慌てて応えた。
「……何あれ」
不意に琴音が外を見て呟いた。
「どうしたの…」
美咲もつられて、外を見ると黒ずんだ雲がこっちに向かっていた。一雨降りそうな予感だ。いや、それにしてはやけに黒いような…
だんだん空も暗くなってくる。
「………嫌な予感がする。急いで」
そう言うやいなや、琴音は勇者達の方へ走り出した。
「あ、コラ、琴音ちゃん」
美咲もその後を追いかけた。それ以外のパーティーの面々もよくわからない様子で二人を追いかけた。
「おいおい、どうなってやがるんだ?お前らのパーティーはよぉー!」
〈拳〉の勇者ゴットンは豪快に笑いながら言った。
「君達!何してるんだ!早く戻れ」
アルマが大声で叫ぶと、琴音以外のメンバーは足を緩めた。
「おいおい、一人馬鹿がいるぞ」
ゴットンはヤレヤレと溜息をついて、琴音の方に向かって歩き出した。
それでも尚琴音は速く走った。物凄い剣幕をたてて。そのせいかゴットンは一瞬、足を止めた。
「……っ!間に合わない」
琴音は急に顔を顰めた。
「避けろじじい!!」
普段大声を出さない琴音が叫んだ。
瞬間、爆音と共に衝撃波が訪れた。砂埃は舞い上がり、歓声は消えた。
「うぇ〜〜い!いちば〜ん!」
砂埃が晴れて現れたのは巨躯な体つきをした猿の獣族だった。右手にはゴットンの頭を握り潰して持っている。
「なっ、」
美咲はおろかアルマまでもがこの異様な風景に驚きを隠せないでいる。
「俺〜様は猿獣族の長、ケルテットルドールトー様だ〜!良きに計らえ」
変な踊りと共にその猿獣人は自己紹介をする。
「おわぉ〜〜い!頭下げろよぉ〜〜〜!俺が馬鹿みたいじゃん〜〜!って誰が馬鹿だっつぅの!ゲヘヘへへへ」
ケルテットルドールトーは一人でツッコミ大爆笑する。ケルテットルドールトーはそれでも笑わない周りを見て、憤慨のダンスを踊った。ケルテットルドールトーはそれが楽しくなってしまっていた。ケルテットルドールトーは…、ケルテットルドールトーは…、ケルテットルドールトーは………(以外略ケルテット)
アルマとキルラはそんなケルテットは無視して空を睨んでいた。
「バーダクさんとガメルはそいつの相手を。美咲と琴音は王女様の護衛を、誠太とマーナは民衆の安全確保、春也はゴットンのパーティーの人達の誘導と怪我人の手当てを」
「「「了解!」」」
アルマの指示の下、一斉に動き出した。
「あれれぇ〜?みんなどっかいっちゃうのぉお〜〜!?まぁ、勇者は殺しちゃうけど〜!」
ケルテットは勇者の元に走り出した。
「馬鹿猿の相手はこっちだ!」
「ん?」
バーダクは自身と同じ位大きな斧を振り下ろした。
「うわぉ〜〜〜、いってぇ!」
ケルテットはとっさに腕で庇ったが、少し腕が斬れて、血が吹き出した。
「チッ、かてぇな」
腕がぁ〜!と叫んでいるケルテットを見て舌打ちをする。
「頭に来たぞぉ〜〜!馬鹿猿だなんて言いやがってぇ!」
ケルテットは地面をめちゃくちゃに殴る。その威力は凄まじく、地面はひび割れ始める。
「まぁ、掛かってこいよ」
バーダクは中指を立てて挑発した。