せっかく異世界転移を果たしたのに理想と現実が真逆で大変遺憾に思う話
「そんなバカな……」
俺にはとんでもなく重い聖剣を杖のように体の支えとして、肩は大きく前後に揺らし、体全身で呼吸を繰り返し現況に打ちひしがれた。
目の前には俺がやっとのことで倒したモンスター。俺は恐ろしく苦労して倒したけど恐らく強さは底辺レベル。
むしろモンスターといっていいレベルかも分からない。
大きめのウサギのような見た目だったし、ちょっと凶暴な動物くらいだったのかも。
そんな動物以上モンスター未満な生物を相手に、瀕死な俺。絶望的である。
そしてさらに絶望的なお知らせをつい先ほど自分で確認してしまった次第だ。
大きな木の根元にもたれかる。聖剣はその辺に転がしておいた。申し訳ない気持ちがなくはないが、俺には重いのだ。
ふーっと肺のなかの空気を吐き出す。とりあえず気持ちを落ち着けたい。
俺はつい先ほどの出来事を思い返した。
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異世界転生がついに俺にも!と浮かれていたんだ。
スマホで読んでた話がまさか自分の身に起こるなんて、興奮せずにはいられなかったんだ。
だって特別変わった生活を送っていたわけじゃない。俺自身、何かに秀でたりしているわけでも自慢できるようなことも特になかった。
強いていえば、冒険ものに憧れてたが故に独学で剣とか振り回してた。ライトセイバーとかもかっこいいよな!
それで俺はその時天気が良かったから小銭だけ持って外に出たんだ。最寄りの公園はすぐ近くにあるけど、それでは散歩にならないので遠回りして向かうこととした。
途中見つけた自販機でコーラを買い喉を潤す。炭酸の刺激がたまらない。
日光浴をしようとお日様を全身で浴びれるように大の字にベンチに腰掛けた。
最初は気持ちいいなーなんて思ってたのにお日様はすごい。段々とじりじりと炙られ焼かれている感覚に陥ってきた。
やべーそろそろ退散しよ、と身を起こすとくらりと目眩がした。
やべー焼かれすぎた、と目眩に身を任せ体をベンチに倒した。
お日様さよなら、と目を閉じて起きたら、ここだった。
俺の日常風景が一掃されて、ようこそめくるめくファンタジー。
興奮で多分周りの話も話半分だったと思う。
ああはいはい、悪の親玉がいるんすね!
おおはいはい、俺が召喚されて倒しにいくんすね!
おっとまじすか、伝説の聖剣なんてあるんすか!
いやぁ至れり尽くせりっすね、ありがとうございます!そんじゃあ行ってきまーす!
ってな具合で渡された伝説の聖剣を片手に意気揚々にお城を出たのでした。
お外に出たらさっそくモンスターのお出まし。
それじゃあ早速聖剣のお力、試してみましょうかねっとね。
ウサギのような見た目のそいつに振りかぶった。
切れない。剣なのに。コツンとえらく可愛らしい音がした。
反撃をくらった。爪がとても痛い。
俺、振りかぶる。手応えはコツンと軽い。
ウサギの反撃。とても痛い。
以下、10回くらい繰り返してようやく倒した。倒したというより気絶、って感じ。
反して俺。とんでもない疲労感とあちこちに切り傷。汗を拭うのに額を手の甲でこすったら血がついていた。
聖剣をもはや棍棒のような使い方をして、切りつけるというよりはあれは殴打だった。
そして現在に至るわけで。さすがに興奮していた頭も冷え冷えだ。
城を出てから戦闘終了まで、テンションあがりまくりだったのと目の前の処理に必死で自分のことを確認していなかった。
異世界に転移してきて、悪を倒してくれと言われ、伝説の聖剣まで託されたんだ。俺はもしやすごい力があるのでは!?と過信するのもおかしくないんじゃないかな。
で、凶暴なウサギさんをやっとのことで倒したあと、何かがおかしいとさすがに感じた。
ここでやっと、ステータスを確認しようと思い当たり実行した。自然と確認方法が思い浮かんだあたりもファンタジー感を感じて、少し感動して気持ちは持ち直した。少しだけね。
そしてやっぱりおかしかった。これは思っていたような展開とちょっと違うぞと。
レベルは勿論1。それはまぁ飲み込む。むしろこの世界の経験値もゼロだもん、しょうがあるめぇよ。その他が問題。大問題である。
体力値13。筋力1。防御1。運1。
大問題勃発。非力にもほどがありません???
俺のこのささやかだが目に見える程度にはあるこの力こぶは幻かな??
他の数値も勿論ある。
魔力値100。魔力50。器用さ50。素早さ50。
大問題勃発。極降りにもほどがありません???
俺、剣振るうの好きだったんだよ!男の子だもん、剣振り回したいじゃん!
それなのにまるで剣を振るわせる気がないこのステータス値。絶望しかない。
さっきまで振り回せてたのは奇跡かも。異世界ヒャッホー!と火事場の馬鹿力だ、多分。
冷静な自分に立ち返り持ってみたらびっくりするほど重い。
やはり俺にはとんでもなくこの聖剣は重いのだ(物理)。
そりゃそうだ。筋力1では振るうに能いしないんだろう。つらみがすごい。
そしてトドメはこれだ。
レベル1の俺だがスキルは持ち得たようだ。
わーありがとうございます、回復スキルがいっぱいだー。
あーなるほどなるほど。だから魔力値100、魔力50とバカ高いんだー。(比較はゴミ数値たちの数々)
俺はなるほどヒーラーなのかな??
そうだとすると伝説の聖剣は??
俺に振るうことが許されないこの剣を賜った意味とは……??
目の前にすごい剣があるのに……俺には……使えない……俺の意味……とは……?
つらみがウナギ登り。天井はどこだ。
とりあえず回復だ、回復。瀕死なうだよ俺。
持てる力は使わねば。これしか今の俺にはないんだ。
ビックリなことに残り体力1だ。ど根性だけはあるのか俺。
回復を使いたいと考えると、自然と呪文が浮かんだ。
呟くと何やらキラキラした光が体をまとい、体力値が回復した。魔法すご。
大樹に身を任せ空を見上げる。
ここでも空は青いんだな、なんて自分のいた日常との共通点を見つけたような気がした。
俺、これからどうしよう……
冷静になってしまった頭が様々な問題を呈してくる。
「あーうなぎ……うなぎ食べたいな……」
とりとめなく出た言葉には意味なんてなかった。
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