助ける
調査の基本はまず聞き込みだろう。しかし、調べると言ったが、八夜は今巨大で困難な壁にぶつかっていた。あのネズミや牛よりも、もしかしたら攻略困難かもしれない難問。
「な、なんて聞けばいいんだろう……? そもそもいきなり声かけて怪しいと思われない? は? 誰? とか言われたら耐えられる気しないんだけど……」
『コミュ力皆無なヨルかーわいー!』
昼休み、八夜は体育倉庫裏で頭を抱えていた。そんな彼女の肩を抱き、アサは半笑いで慰める。
「ねぇアサ、どうしたらいいと思う?」
『自分で声かけるの無理だったら、ほら、ネットとか使ってみたら? 私アレの使い方よく分かってないけど、えすえぬえす等々が便利なんじゃないの?』
「あれ? 夜中にいっつも私のスマホ触ってるけど……アレは何をしてるの?」
『よーつーべ見てほくそ笑んでる、世の中には面白い人がいっぱいるねー』
「もー、早く寝なさい、目が悪くなるよ。あと、多分読み方間違えてるよ」
『はいママ』
「育てた覚えないて」
『人はね、お互いに影響を与えながら生きてるんだよ。影響されながら成長していくという事は、私とヨルはお互いのママなんだって言っても過言では』
「過言です」
八夜はポチポチとスマホの画面をタップして、アプリを開き、クラスのグループアカウントをジッと見つめた。チャット画面を開いて、文章を打ち込もうとするが、すぐに消して、また新たな文を書こうとする。
瞬きも忘れて画面を見つめながら同じ事を繰り返す八夜を、最初は面白がっていたアサが、段々と不安げな表情になりながら見つめていた。
『え、ヨル……なにやってんの』
「いや、ここならみんないるし、一言送信するだけで一気に情報が」
『総スルーとかされたらどうする……』
一瞬の静寂。そして響く八夜の悲鳴にも似た哀哭。
「えーーーーんっ!」
『マジかよ! えーんって泣く人初めて見た!』
蹲ってシクシクと泣く八夜の背中を、アサは申し訳なさそうに撫でる。
『いやほら、一回やってみてもいいかもだし! やってみなくちゃ分かんないよ!』
「分かるよー……一回も話した事無い子がいきなり『公園の黒焦げ死体事件についてなんか知りませんか?』とか聞いてきたら普通に気持ち悪がられるでしょ……私だって客観的に見て関わりたく無いって思うもん」
『いや自覚あるの絶望的に辛ぇな』
何でこんな事で躓かなきゃならないんだろうと、真剣に情けなくなってきた。どうしてこんな事に? 何故自分にはこんなにもコミュ力が無く交友関係も少ないのだろう。誰かのせいにしたいが、残念ながら自分の顔しか思い浮かばない。
「静はこういう事得意そうだなぁ……」
『めっちゃ友達多いもんねー。てかてか、別に無理して聞かなくても、ネットニュースとかになってないの? なんかまぁまぁ大事になってるっぽいし』
「……それもそうか、わざわざ私が取材の真似事なんてしなくたって、今や勝手に情報は流れてくる時代だもんね」
便利だなと思いながら、虎と戦った公園の名前、その後ろに事件と付けて検索をした。予想通り大量の検索結果がヒットし、あっという間に時間の詳細を確認する事が出来た。
「被害者は全部で十人……全員感電死と思われるって……間違いなく虎だ……遺体の損傷が激しくて、全員の特定には至ってないみたいだけど……遺留品とかから地元で有名な不良グループだったらしいね……」
『虎が言ってた、襲ってきたから返り討ちにしたっていうのはホントなのかもね。え、てか勇気あるなー、あんな化け物相手に挑んだのか』
「……もしくは、襲った時はまだ人間だったのかも……何かトラブルが起きて、喧嘩になって」
『うーん、今朝の話がやっぱちょっと絡んでくるかね。ランニングボーイの弟君がつるんでた悪い奴らがこの不良グループなら、殺した後に姿をくらましたのも納得いくし』
被害者の名前などは公表されていないので、全て推測の域を出ないのだが、かなり真相に近付いている気がする。しかし、何か違和感が、変な不安が拭えない。
何か勘違いしているような? だがそれがなんなのか思いつかない、分からない。
『まぁでもここまででいいんじゃないかな?』
「うん?」
『いや、ド素人考察とはいえまぁまぁ有益な情報でしょ。対策局にチクッて後はのんびりしようよ』
「んー……まぁ最初からそういう話だったもんね。でもちょっとだけ待ってくれない?」
八夜は立ち上がって、スカートの埃をはたき落としながら言う。
「私やっぱり、何か気になるんだよね……全部憶測だし、このモヤモヤを晴らさないと……」
『まぁ命懸けの戦いになるだろうしね。そこはヨルに任せるよ、とりあえず学校終わったらもっかい考えよっか』
そう、大事なのは確かな情報を得た上で流すこと。それが出来なければ余計な犠牲者を出してしまうかもしれない、それでは本末転倒だ。
犠牲者が出ないように導く事は出来るかもしれない、それが出来なければ、戦わないなんて選択をするなんて、とてもじゃないが出来ない。怪異と深く繋がっている、完全適合者の自分だからこそ、やらなければならない事なのだから。
「無関係じゃないんだ、頑張ろう」
本当に戦わなくて良くなるその時が来るまで。
そう心に誓った。
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早速誓いを破った。結論から言えば、変身までして戦ってしまった。
「あー、えっと……大丈夫?」
ウサギを模した甲冑のような姿のまま、八夜はへたり込んだまま震える少女に手を伸ばす。小学生ぐらいだろうか、目の前で起こった事が理解できずに混乱しているのだろう、ただひたすら震えて、目を泳がせていた。
学校が終わって帰り道、悲鳴が聞こえて駆け付けてみると、今まさに巨大なスズメバチのような怪物に少女が捕らわれ、体内へと侵入されているところだった。
咄嗟に『モードニードル』へと変身し、拳の棘を飛ばして蜂を少女から追い出した。そのまま飛び上がり、勢いよく蹴り付けると、蜂の怪異は辺りに散らばりそのまま消えてしまった。
その場に残ったのは化け物を潰した化け物と、怯える少女の二人だけ。
「怪我は無い? 立てる?」
「は、はいぃ……」
震える声でそう言って、少女は八夜、もといナイト・ウォーカーの手を掴む。
「もう大丈夫だから、慌てずお家に帰って、それからさっきの怪物の事をお家の人に話して、怪異対策局ってところに通報してあげてね」
「あの……えっと……助けていただいてありがとうございます。あなたのお名前は……」
まだ小学校低学年ぐらいに見えるのに随分しっかりした子だと感心しつつ、八夜は彼女の頭を撫でながら言った。
「私はナイト・ウォーカー、貴女は?」
「わ、私は……すずめです。蘆永すずめ」
「すずめちゃん、可愛い名前だね。さぁもう大丈夫だから、お家にお帰り」
そう言って、彼女が見えなくなるまで見送った後、八夜は周りに誰もいない事を確認してから、念の為少し移動して、廃墟となったビルの物陰に隠れて変身を解いた。
「ふぅ……危なかった。ありがとうアサ、協力してくれて」
『まぁアレは状況が状況だったし、敵もそこまで強くなかったみたいだから良いけど……でもいきなり変身するのはびっくりしたな、誰かに見られてたらものすごーく面倒な事になると思うから気を付けた方がいいよ』
若干アサに呆れ気味に言われ、八夜はがっくりと肩を落とす。確かに言う通りだ、少し迂闊だった。
「そうだよね……気を付ける」
『分かってくれたならいいよ。ところでさ、ここはどこさ』
アサが辺りを見渡しながら言う。
「いつも買い物する商店街の近くだよ、せっかくだから夕飯買って行こうかと思って」
『戦った後なのに切り替えすごいや』
「どちらかと言えば、切り替えるためにここに来たって感じだけどね……正直かなり焦ったから心臓バクバクだったよ」
蜂の怪異の半身が、既に少女の肉体にめり込んでいるのを見た時は、背筋が凍りつくのを感じた。ほんの一瞬、もう助けられないのかと思ったが、諦めなくて本当に良かった。
何食わぬ顔で商店街に入り、夕飯の献立を考えながら歩く。
「何食べたい?」
『コロッケ。ソースでびちゃびちゃにしてご飯に乗っけるの』
「それお外でしたらダメだよ? 行儀悪いから」
そんな事を言いながら歩いていると、道行く人混みの中に、見覚えのある顔がある事に気付いた。必死な顔で紙を配りながら何かを呼びかけている少女がいる。
「あれ? 確か…今朝会った……えっと」
『陸上ボーイの幼馴染ちゃんだね、何してるのかな』
紙を受け取って貰おうと腕を伸ばした瞬間、通行人にぶつかってしまって、そのまま持っていた紙を落としてばら撒いてしまった。周りの人は迷惑そうな目線を向けるだけで、彼女を避けて歩いて行く。彼女はただ黙って拾い集めていた。
今朝つぐみと言い争っていた少女、名前を教えてもいないし、聞いてもいない、知り合いとも呼べない全くの他人だ。しかし、とてもじゃないが放っておけなかった。
「あ、あの……大丈夫、ですか」
紙を拾い集め、少女に声をかけた。
「……あ、朝の」
少女も八夜の顔は覚えていたようで、一瞬気まずそうに受け取るのを躊躇ったが、すぐに弱々しい笑みを浮かべながら「ありがとう」と言って紙束を受け取った。
「朝はその……ごめんなさい、八つ当たりみたいな事しちゃって」
少女はそう言って深々と頭を下げた。
「あ、いやっ、あの、ぜ、全然気にして無いですから! 私もほら、大事な話の最中に割り込んじゃったというか……邪魔しちゃいましたし」
「……いや、割り込んだというか、つぐみに巻き込まれたって感じだったような……そこも含めてごめんなさい」
少女はそう言ってから、何か思い出したように八夜に向いた。
「そういえば、自己紹介忘れてた……私、上杉良子っていいます、つぐみとは幼馴染で……陸上部のマネージャーをやってます」
「あ、上杉さん……私は八雲八夜です。つぐみ君とは……昨日の朝に偶然通学路で会いました……以上です」
八夜がそういうと、良子はきょとんとした表情を浮かべて、首を傾げた。
「え……それだけ? と、友達って呼んでいいかどうかも怪しいレベルの……顔知ってるぐらいの関係?」
「……お恥ずかしながら」
八夜が頷くと、良子は何か、安堵したようなため息を吐いた。どうやら、何かややこしい勘違いをしていたらしい。なるほど、妙な敵意はそこからくるものだったのかと、八夜は変な納得をした。
「もしかして……彼女的な感じかと思いました?」
「うん、いきなり人が変わったみたいになってたから、悪い女に引っかかったのかと思ってた」
「そ、そんなに感じ悪かったですか……?」
不安そうに八夜が言うと、良子は、しまった、という感じに手を振った。
「いや、全然そんな事無かった。むしろ、あー、すごく良い子なんだろうなー、って思ったぐらい」
「良い人そう……それつぐみ君にも言われましたね」
「そうなんだ。それ言ったつぐみ自身も本当は良い子なんだけど……なんであんな風になっちゃったかな……」
そう言う良子の目は、とても悲しそうだった。そんな彼女の弱った心を利用する様でかなり心苦しかったが、八夜は思う、彼女からなら何か有益な情報が掴めないかと。
彼女はつぐみの幼馴染で、彼の弟も交流があるらしい。弟側に怪異疑惑がかかっているなら、何か怪しい動きをしていたとか、どんな些細な事でも良いから、確証を持てる情報が欲しかった。
「あの……良ければ、お話聞かせてもらえませんか?」
「え? なんの……」
「何か辛そうと言うか……思い詰めてるみたいですから。そういう時は、誰かにとりあえず話を聞いてもらうだけでも楽になるんです。だから、その、私でよければ」
良子は怪訝な表情を浮かべている。しまった、ズケズケと入り込みすぎたか。そもそも知り合いになったばかりという程度の関係性で、込み入った話など出来るわけが無い。
「……そう、かもね……一人でうじうじしてるから……状況が好転しないのかも……えっと、八雲さん、だよね? 話、聞いてくれる?」
「へえ、あええ!? ああ! はい! もちろん!」
まさか本当に話してくれるとは思っていなかった。自分から提案した癖に、八夜は間抜けな反応をしてしまう。
近くのベンチに座り、しばらくの沈黙の後、良子はぽつりぽつりと語り始めた。
「私とつぐみ……それから、つぐみの弟、竹水ロウって言うんだけど……ロウの三人は昔から一緒で、幼馴染ってやつでさ……子供の頃からよく遊んでたの」
良子は俯き、懐かしそうに目を閉じる。
「その頃はもっと仲良かったんだけど……いつからか、兄弟がギスギスし始めちゃってね……多分、自惚れるわけじゃないんだけど……多分原因は……私なんだと思う」
「……」
理解出来なくは無い。実感は無いし、そもそもそんな経験が無い八夜だったが、なんとなく、その関係がどんなものか理解出来た。
男女三人。それが男の子と女の子ならば、拗れなかっただろう。しかし、人は成長する。男の子から、男へ、女の子から、女へ。成長は、つまり知識を増やすという事、理解の範囲を広げるという事。
感情。気持ち。薄々勘づいていた、胸の内に生まれていたモヤモヤ。それがなんなのか理解出来た時、それは同時に、互いに意識したのだろう。
それは悲しいかな、兄弟で理解した。家族である相手が、ライバルになったのだと。そして、あっという間に兄弟は些細な事で競い合うようになったらしい。どっちの方がゲームが上手いとか、どっちの方が勉強が出来るとか。
どっちの方が、良子と多く遊んだとか。
「それからつぐみが中学で陸上部に入って、一年後にロウも入った。二人とも昔から足が速くてさ……あっという間に色んな大会で成果を上げていった。でも、周りの賞賛とは裏腹に、二人はお互いの事しか見えてなかった。例え優勝しても、それは所詮1ポイント扱いだった……どっちが多く優勝した、って」
良子は困ったような笑みを浮かべる。
「恥ずかしながら、私も悪い気がしなくってさ……二人とも私に良いとこ見せようって頑張ってて……二人ともカッコ良かった……なんだかお姫様になったような気分だった……そんな二人を支えたくて、私もマネージャーになった」
そんな事を繰り返していくうちに、あっという間に中学三年間が終わり、舞台は高校に移った。しかし、そこでも二人はぶつかり合っていたらしい。
「そして、つぐみにとって最後の大会、その直前に事故が起こった。履いてたスパイクが壊れちゃって、途中で転んで大怪我しちゃったの」
「え、それって……」
結果を察して息を呑む八夜に、良子は小さく頷いた。
「すぐに病院に行ったんだけど……もう大会には出られなかった……それどころか、もう陸上は無理だって言われて……その時のつぐみは、見てられなかった」
辛いに決まっている。全力で頑張っていた友達が、たった一つの事故だけで、全てを失ってしまう様子を見ていたのだから。失った方の絶望と、見ている事しか出来ない方の絶望。誰も幸せになれない結果だろう。
「ロウは、落ち込む私を慰めてくれてね。私の責任じゃないって、スポーツマンなら誰でも起こる可能性だって。それに、つぐみはそんなに弱くないって、すぐに別の事で追いついてくるって……私もその言葉を信じた、つぐみは負けず嫌いだから、きっとすぐに別の道を進んで、自分にしか出来ないって、ドヤ顔を見せてくれるって」
しかし、それは叶わなかった。つぐみは塞ぎ込むようになって、学校も休みがちになったと。前みたいに話す事も無くなって、たまに部活の様子を死んだ目で見つめて、俯いて去って行く。
「後になって聞いたんだけど、家族にすごく失望されたって……きっと、誰も、どこにも味方がいないって、絶望させちゃったんだ……無責任に信じるなんて言ってないで……私だけでも、側にいてあげるべきだった……一人にさせちゃった」
今にも泣きそうな声で、良子は言う。
「う、上杉さん……私には、計り知れない辛い思いをされたんだと思います……それを踏まえて、それでも言わせてください……上杉さんがそんなに思い詰める必要は無い……と、思います」
八夜は、彼女の震える手を握りながら言った。恋心なんて抱いた事は無い、でも、自分の事を想ってくれた人ならいた。その人が、いなくなった辛さを知っている。あの時自分が、と、何度も思った。自分を責める痛みを知っている。
違う形だけど、同じ痛みを理解できる、はずだ。だからこそ、言える。
「過去の自分を責めすぎないでください……その時の上杉さんは……精一杯最善を尽くしたはずです……頑張ったはずなんです……そんな自分を、これ以上傷つけて、否定しないでください……それじゃあ……本当に誰も救われない」
弱々しく、どこか怯えているような声色だけれど、まっすぐこちらを見つめてくる八夜の目。その目と視線を合わせた良子は、言葉を交わさなくても理解した。
この人も、同じくらい辛い思いをしたんだと。大切な人がいて、その人が傷つくところを見たんだと。その原因が自分にあると、ずっと自責の念に囚われて、許すことが出来なかったんだと。
「や、八雲さん……貴女」
「……ん、あれ? でもすいません……話の腰を折るようで申し訳ないんですけど……その事故で、つぐみ君は……走れなくなったんですよね? でも……」
そう、八夜は出会っているのだ、ジャージ姿で元気に走るつぐみと。あり得るはずのない矛盾が生まれた。
八夜は、自分の中にあった違和感を、少しずつ理解し始めた。
つぐみの独り言、ぽつりと聞こえたあの言葉。
……蔑ろにしてる、どの口が言ってるんだか。
あの苛ついているというか、怨んでいるとも言えるあの声色、あの言葉。
「そうなの、私も実はすごく気になってて……だって、もう治らないって言われてて、小走りすら出来なかった……前日まで引きずるように歩く事しか出来なかったのに……おかしいよね、急に走れるようになって」
ドクンと、心臓が跳ねるのを感じた。変な汗が出る。その現象、その不自然、その症状も、八夜はよく知っている。比喩ではなく、痛いほどよく知っている。
思い出す、初めて自分がこうなったあの日を。落下し、直後身を貫かれた痛み。自分の体を突き破って伸びる桜の木の枝。ぶら下がる内臓、吹きこぼれる血、あっという間に闇に染まる視界。
本来なら既に死んでいたはずの自分が、今こうして人と話している不自然。
「……まさか、そっち……!?」
その時、ある考えが脳裏をよぎり、すぐにスマホで確かめた。
「……っ!」
結果はすぐに表示された。出来れば外れていて欲しかった最悪の予感。
「……え、どうしたの? 何を見て」
「上杉さん……つぐみ君の家ってどこですか?」
「……え? なんで急に」
「教えてください!」
血相を変えて言う八夜に、良子はただ事ではないと察して、ふと、スマホ画面に目を移す。小さな文字だったが、しかし辛うじて、それが公園の感電死事件についての記事だと読み取れた。
「……何を見たの」
そう言って、良子は素早く八夜からスマホを取り上げ、画面を見た。
映っていたのは、犠牲者の名前。全員で十名だったはずだが、しかし、今見ている画面では、一人増えて十一人となっていた。
誰が増えた? 見覚えの無い名前の羅列、どうかこのまま知らないままでいてほしいと、良子は画面をスクロールしていく。
しかし、現実は非情だった。
一番最後に追加された名前を見た時、良子はその場に崩れ落ちた。
竹水ロウ。犠牲者の名簿の中に、その名前があった。
「……はっ……はぁ……はぁっ! はぁっ! うああっ!」
ガタガタと震えて、ロクに声も出せず、良子は泣いているのか笑っているのか、ぐちゃぐちゃの顔になりながら、縋るように八夜を見上げて言った。
「……た、たすけて……!」
きっと本人も、なぜ目の前の、見ず知らずの少女にこんな事を言ったのか分からないだろう。そもそも、意味なんて無かったのかもしれない、ただ、心の内側から出た言葉をぶつけただけなのかも。
それでも、八夜が決断するには十分だった。
「助けるっ!」
今までの、遠慮がちな言葉じゃなく、力強くそう言って、八夜は走り出した。
自分がやらねばならないと思った。




