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アサとヨルの怪異譚  作者: 倉トリック
橋の上の怪異
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繋がり

「ねぇ、八雲」


 次の日の昼休み、教室の隅で昼食を食べようとしている八夜の前に、大橋が現れた。手には弁当らしき包みを持っている。


「あ……えっと、大橋さん」


「お弁当、一緒に食べて良い?」


 突然の事に八夜がキョトンとしていると、大橋の顔がみるみる不安げになっていく。


「あ、ごめん、やっぱりダメかな」


「え、あ、違います違います、ちょっとビックリしただけです。どうぞ、一緒に食べましょ」


 八夜が言うと、大橋はにんまり笑って向かいに座って弁当を広げる。中身は卵焼きやウインナーなどが少しずつ入っている、ちょっと控えめだが、実に美味しそうであった。


 それに引き換え、自分はコンビニで買ったサンドイッチや菓子パンだらけ。女子力というものだろうか、そういう何かに大敗した気がした。


 だって朝忙しかったんだもん。


「八雲って、意外と食べる方なんだ」


 関心した様子で八夜の手元を見ながら、大橋は言う。


「そ、そうですか……?」


「コンビニのサンドイッチって結構お腹いっぱいにならない? 私二つが限界かもだし。」


 言われて、手元にあるサンドイッチの数を確認する。合計5つ、それに加えて菓子パン類が5つ。


 そう言われてみれば多いかもしれない。買う時には対して違和感も抱かなかったのに、今思えばおかしな話だ。ちょっと前まであんぱん一つ食べるのにだって苦労するほどだったのに。


「もしかして……体が元に戻ってきてるのかな……」


「ん? どういうこと?」


「ああ、いえいえ、なにも……そ、それより大橋さん、あれからどうでした? 連絡つきました?」


 慌てて話を切り替えた八夜に、一瞬不思議そうな顔を浮かべたが、大橋はすぐに笑って親指を立てた。


「バッチリ、すぐ来てくれた……っていうか、実は私、あの夜別の化け物に襲われてさ」


「ええっ!?」


 まさかの発言に八夜は思わず大声をあげてしまう。一瞬だけクラスの視線を集めてしまったが、間を置いて小声にして続ける。


「化け物にって……どこで」


「家の近く、豚みたいな猪みたいな変な奴に襲われて……もうダメかと思ったんだけど、ちょうどその時に怪異対策局? の人に助けてもらった」


「そう……ですか」


 あまりに大橋が普通に言うので、こちらの反応も薄くなってしまったが、明らかに一大事である。こんな短い期間で二回も、しかも別の怪異に襲われるなど、不運にも程がある。いや、助かってるのである意味では幸運だとも取れるが、そもそも怪異なんかに遭遇している時点でやはり不運だろう。


 事故に遭い続けているようなものだ。


(ネズミの時の女子生徒といい、なんか妙だね)


 八夜の内側から、アサが呟く。


(彼女が引き寄せやすい体質、とも考えれるけど、それなら襲ってくるのは器を求めた実体のない奴等の方だろうし、完全に実体化した奴が人を襲うなんて……無くは無いけど可能性薄いと思うし……適合者を見つけて完全にその肉体を奪う事に成功した個体なら尚更人を襲う理由は無い)


 それってつまりどういう事? と、八夜は心の中でアサに問いかける。


(前に呉さんが言ってた通り、なんか怪異全体の動きが変だね。何をそんなに焦ってる……いや、何に怯えてるんだろう?)


 怯えている。確かに、その動機が一番()()()()()。人間よりも遥かに強い彼らが、それでも人間を積極的に襲うなんて、他に理由が見つからない。しかし、彼らは人間の何に対してそれほどの脅威を感じているのだろう。怯えているという動機に可能性は感じるが、しかし、納得はまるで出来ない。


(これはもう、本人達に聞くしかないかね)


 アサのその言葉に、八夜は驚きを隠さなかった。あまりの衝撃に、飲んでいたお茶が気管に入り、思い切り咳き込む。


「ちょっと、大丈夫?」


 大橋が心配しながら、ポケットティッシュを差し出してくれた。八夜は礼を言って、ティッシュで口元を拭く。


「ごめんなさい……もう大丈夫」


「なんか、しばらくぼんやりしてたけど……もしかして体調悪い?」


 心配する大橋に、八夜は苦笑いを浮かべながら掌を振る。


「いやほんと、全然大丈夫ですよ。ちょっと考え事してただけで」


「ならいいんだけど……でも何かあったら私に相談してよね」


「あ、それなら……牛の化け物を見た詳しい場所を教えてもらいたいんですけど」


「え……何の為に?」


 牛の話題を出した途端、大橋の目つきが険しくなる。当然だ、思い出したく無い事に決まっている。


「あ、ごめんなさい……その、友達にそういう噂みたいなのが大好きな子がいて……多分肝試しとか行きそうだから止めたくて」


「なるほど……まぁ、詳しい場所って言っても、隣町への橋の真ん中、としか言えないけどね、しばらくは近付かない方がいいんじゃない」


「はい、もちろん、そう伝えておきます」


「……八雲、あんたまさか」


「しーずーかー!」


 言いかけたところで、大橋を呼ぶ声が廊下側から聞こえてきた。振り向くと、別のクラスの女子生徒が手招きしている。


「先生が呼んでるよ! アンタ委員会忘れてるでしょ!」


「あれ、今日だったっけ? すぐ行くよ。ごめん八雲、また明日ね」


 そう言うと、大橋は足早にその場を去ってしまった。


「また、明日……」


 言葉を反復し、八夜は何かムズムズするものを感じる。


「なんだか……友達みたい」


 八夜は何故か顔が熱くなり、誤魔化すようにサンドイッチを頬張った。

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