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銀河の一滴  作者: 樽おじさん
銀河を駆けるコメットハンター
2/3

馬の首とランチタイム。

彗星をめぐる人間の記憶と記録

「イリス、いま何時?」

『銀河統一時間で10時13分です、滞在中のパシフィック星域統一時間では14時13分ですが。』

2時間ちょっとの亜光速航行を終え、パシフィック星域の周縁部に到着した。

星域のはずれなので、星明りがうっすらとしており、外宇宙が暗く不気味に見えるところは何度見ても慣れない。

このままそこに吸い寄せられていったら、どうなってしまうのだろう。

一方、反対側は恒星系がいくつかあるので明るく、わかりやすい宇宙といった具合だ。

この星のうちいくつかには、人間が住んで生活をしているだろう。

先ほどSNSで確認した情報では、現地点から近い場所にある小惑星帯にてきらきら光るものが目撃されたらしい。

きらきら星という歌があったなと思いだしたが、その星はそのままでは当然光らない。

何かエネルギーを発したり、何かエネルギーが発生する現象が起きない限り、光は発生しないのだ。

しかも今回は可視光だったということで、それなりにエネルギーが大きいか、あるいはそれなりに大量の何かがそこに存在したということだ。

残念ながら画像はSNSに投稿されていなかったが、その情報だけあればなんとなくアタリはつく。

「イリス、一回エンジンを切ってこの辺一帯の温度を調べてくれ」

『エンジン消火、放熱まで30秒、、、ゼロ。温度計測します。』

放熱フィンの展開された機体は古代の帆掛け船のようだった。

宇宙船といえばもう少しシンプルでカッコイイが、機能が後付けになる個人所有のボロ船ではデザインなんて期待してはいけない。

「イリス、情報確認。可視光が出るくらいだから温度は高いはずだ。」

『計測中、側面右側、星域外縁に向けて恒星の陰に小さな熱源。』

「識別シグナル発信。組成はなんだ、イリス」

右側は外宇宙。あまり近づきたくない方向だ。もっとも、感覚的な話であってこの船では何も問題がない場所だが。

熱源をみつけた。モニターでズームするが熱モニターでは細かい形がわからない。

光学式モニターを使用したい。人間はやはり自分の肉体で直に感じたくなる。

「イリス、熱源に向けて慣性航行。誰かに見られてるとマズいから加速は一回で」

『了解、慣性航行開始。光学式センサーで詳細に補足できる距離を設定』

対象物に追いつくまで5分。一度エンジンの起動が知らされるアラートが鳴り、一瞬振動した後は無音状態に戻る。

無音だと落ち着かないのでジャズをかける。ジャズラジオはお気に入りのチャンネルだ。

『対象物の組成は氷がほとんどであることがわかりました。』

「そか、有機物は?」

彗星のほとんどは氷でできている。特に核になる部分には貴重な鉱物や金属の素材、お金になるものがいろいろ含まれている。

本当は核の部分を狙いたいが、宇宙空間では氷も貴重な物質だ。

特に人類のような生物には水が欠かせない。

「イリス、氷の大きさはどうだ?」

熱センサー越しに見る限り、対象物は一つに見える。

『おそらくランクDのサイズ。本船でけん引可能な大きさです。』

ランクDなら楽勝だ。物理けん引でも問題ない質量だろう。

一回小惑星帯に衝突していることを考えると純度は悪そうだが、小遣い稼ぎにはちょうどよさそうだ。

『接触まであと4分。マニュアルモードに切り替えますか?』

オートパイロットでも問題ない難易度だが、手動操作が好きなので主導に切り替えよう。

「マニュアルでいこう。非番だし、これは趣味の一環だ」

『了解、接触30秒前にマニュアルモードへ移行します。』

外宇宙を向いているので視界は漆黒。ここまで来て何も通信が入らないので、多分この周辺にほかの船はいないだろう。

「イリス、投光器スイッチだ」

『了解、投光器オン。念のため光量は絞ります。』

こいつ、気が利くな。投光器がオンされたので光学式船外カメラに切り替える。

メインモニターが一瞬消え、ブラックアウトする。

その後、目の前には宇宙が映し出された。

宇宙空間に漂う感覚。自分が船外に放り出されたら、心細くなるだろう。

真っ黒な宇宙空間にジャズラジオが響く。

投光器の向きを少しずつ変えていく。左に少し、上に少し、もう少し左。

スポットライトの先が、一瞬きらりと光った刹那、画面が真っ白になった。

「イリス!ライトを広角モードに」

『了解、投光器広角モード。』

薄く広くライトが照らし出す先には、いびつに尖った氷の塊があった。

「これはなんだか、動物みたいだな」

氷の塊はところどころほこりをかぶっており、そこは何かが衝突した際に付着した塵だろう。

海に浮かぶ氷山のような塊は、本船の数倍の大きさがありそうだ。

「ランクDも近くで見るとデカいなぁ。よし、やるか」

『捕獲モード、オンしますか?』

「うん、始めようか。ちゃっちゃと終わらせよう」

まず初めに、イリスへ一度操船を明け渡す。こうして本船を彗星と並行して航行させる。

その後、彗星と同じ速さまで速度を調整する。こうすることで相対距離はゼロとなる。

そこで今度は彗星の周りを一周し、スキャンする。

ここで彗星の3Dデータをとる。一度データを確認し、彗星に割れ目がないかを確認する。

大きな割れ目がある場合、途中で彗星が分解したりと事故のもととなる。

ここでしっかりチェックすることがポイントだ。

次に彗星の先端部分まで船をじわじわと加速させる。

彗星の先端はいびつな馬の首のようになっていた。

捕獲カバーをかけるのに邪魔となるので彗星の先端はレーザーで丸く加工する。

船外に取り付けられたレーザーを扱い、適当にピッピと切り取っていく。

今回はほとんど氷なので楽な作業だ。これが金属や希少鉱物だと、なかなかセンシティブな作業である。

個人的にはこの氷で水割りを造りたいので丸氷のようにつるっと仕上げた。

馬の首には申し訳ないが、レーザーで焼き切ってしまう。

そして仕上げは、アンカーだ。本船と彗星を繋ぐレーザー牽引機を彗星側に打ち込む。

まずはつるっと仕上げた頭の方に打ち込み、前面を固定する。

その後、前面のアンカーからドローンが自動で発射され、側面にも数か所打ち込んで完成だ。

彗星側の姿勢制御を確認し、最後の仕上げが”帆掛け”だ。

今は彗星と本船が高速で航行している状態なので、本船側で彗星の軌道も変更してやる必要がある。

アンカーだけで質量の大きい彗星の加減速を制御することは危険なので、彗星の後部に帆を張るのだ。

その帆にレーザーでエネルギーを照射し、徐々に加減速をしていく。

「大型船だとね、そのままドッキングしたりして強引に操艦出来て楽なんだけどね」

『・・・』

ひとりごとを言っている間に、ドローンが帆掛けを完了した。

さながら、パラシュートが開いたような見た目で、古代の人類が宇宙から帰還するときの映像のようだ。

『セイルの展開完了。帰投しますか?』

「イリス、いま何時?」

『銀河統一時間で13時25分です、滞在中のパシフィック星域統一時間では17時25分ですが。』

「ちょっと遅いけどお昼にしようかな」

その後、僕は船外活動服に身を包み、彗星の表面に降り立った。

彗星といっても、正確には彗星の割れたかけらだ。

ざらざらした氷は、船外活動服の僕を映し返す。

僕は氷をひとかけら手で割り、船に戻った。

お昼ごはんはハムチーズのホットサンド。彗星の氷でコーヒーを淹れよう。

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