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六日目

 


 今日は晴れたわ。今夜は綺麗な月が見えそうね。いつかバルコニーで旦那様と一緒に月を見てみたいと思った事がありました。懐かしいわ。すぐにそんな事は夢のまた夢だと分かりましたけどね。

 


「旦那様、本当に私を愛していたのですか?」


 返事がないと分かっているのに話し掛けるのは何度目でしょうね?


 信じてはいませんが彼女の言った言葉がずっと頭から離れません。


 もし、本当に私を愛してくれていたのならばどれだけ嬉しいでしょう。いえ違いますね。愛されていたならばそれこそ、何故言ってくれなかったのか呪いたくなりますよ。



 真相を知りたくても話すことすら出来ない私には旦那様を観察する事くらいしか出来ません。




 観察していて思ったのですが旦那様少し様子がおかしいのです。



「明日が命日か……。もう一度ここに戻ってきてはくれないのだろうか。」


「カミル様、奥様は亡くなられました。いい加減目を覚まして下さい。今、倒れていない事が不思議なくらいです。」


 ヨゼフさんの呆れたような怒ったような声が聞こえました。私が死んだ事と休まない事は関係しているのでしょうか?



「縁談が来てますよ?」



「断れ。早急にだ。」


 私に向けられていた冷たい瞳とは比べ物にならないくらい冷えきった目でそう言いました。



 縁談を断って下さるのね。性格が悪いのかもしれませんが嬉しいわ。旦那様は私が死んだ事、少しは気にしてくれていたのね。





「分かりました。では、失礼いたします。」


 ヨゼフさんが居なくなり、この部屋には私と旦那様だけになりました。と言いましても旦那様にとっては一人でしょうけど。




「旦那様、私はもう消えますね。貴方が私の事を覚えていただけでもう十分です。貴方が私を愛していなくても私は幸せだった……のでしょうね。」



「俺はお前の事を愛していた。幸せにしてあげられなくてすまなかった。」


 私の言葉にまるで答えるように旦那様は小さく何か言いました。私にはあまり聞こえませんでしたが仕事で疲れているのでしょうね。


 もう、これ以上この世に留まってはだめだわ。そろそろお別れしましょう。新しい奥様も居ないようでしたのでそれだけで良かったと思いましょう。



 私はゆっくりと目を閉じました。ふわふわと体が浮く感覚があります。このまま天に昇っていくのでしょうか。










 ……………いや、いつまで経っても成仏できた感じがしないのですが本当に大丈夫でしょう?



 そう思い、目を開けましたら屋敷の屋根の上でした。残念な事にまだ、成仏は出来ないようです。心残りはないと思ったのですがどうやら未練があるようです。欲張りで呆れます。




 もう、疲れてしまいました。もう一度目を閉じる事にしましょう。考える気力も無くなってしまいましたね。







 

 もう一度目を開けた時には美しい月が空に昇っていました。明日は満月ね。それに何故だか体がいつもよりふわふわするのです。そろそろ本当にこの世とお別れが近いのかもしれません。


 月には不思議な力があるとは昔から信じられてきました。あの淡い光を浴びている時だけ少しだけ素直な気持ちになれて…………私はよく泣いていたわ。


 愛して欲しかったから、名前を呼んで欲しかったから、力になりたかったから……どうしてでしょうね。


 

 やはり月の光を浴びていると素直で弱い私が出てきてしまうみたいね。


 誰も見てない……今では誰にも見えないですが今だけは少しだけ泣きたい気分です。


 

 幽霊でも涙は流れるみたいですね。地面を濡らすことはないですけれど。




 そう言えば私を虐めていたと言う彼女、私が旦那様に愛されていたと言っていました。私の為にネックレスを探していた……本当ならば意味がわかりません。




 呪うと思って幽霊になったと思っていましたが、これでは呪う事も出来ませんね。私がここに居る意味もないですし。


  どうやって成仏すればいいのか分からないわ。でも、もうすぐ消える気がしているのよ。


 最後に一度だけ旦那様と話せれば満足でしたのにそう上手くはいきませんね。




 明日は私の誕生日そして命日ね。



 生きていれば20歳だった……。



 死んだら星になると言いますね。空には無数の星が煌めいています。私もあの美しい星になれるでしょうか。


 幽霊などになってしまった私は星になることも出来ないでしょうね。


 星になりたい訳ではありませんがこれからも空から旦那様を見守りたいです。



 どうやら、私が思っていたよりも旦那様は私の死を引き摺っているようですので。


 気にしなくていいとそれだけ伝える事が出来れば良かったのですけれどね。





 もう眠たいわ。いつの間にか私はもうまた眠ってしまったようです。



 きっと明日が最期の日になると直感しています。







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