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二日目

読んで頂きありがとうございます(*_ _)

 


 眠っていたのでしょうか。それもよく分かりません。


 やはり、誰にも相手をして貰えないというのは些か寂しいものですね。結婚生活を送っていた時も旦那様には見向きもされませんでしたが侍女の皆さんやヨゼフさんには良くして頂いていたので今と比べれば楽しかったのかもしれません。と言っても旦那様のこと以外の記憶は所々抜けているのですけれどね。



「さっき何か奥様の部屋から何か聞こえたような気がしたんだが?」


「気のせいでしょう。あの部屋は誰も立ち入ってはならないと言われているのですから。」


 扉の外から何やら侍女達の話し声が聞こえますね。奥様の部屋とはここでしょうか?いえ、違いますよね。私はもう奥様ではないですから。誰も入れてはいけないとは神経質な奥様なのかしら?それとも神経質なのは旦那様かしら?



 少し奥様に会うのが楽しみになってきました。どのような方なのでしょう。



 しかし、私は幽霊になったせいか記憶が少し朧気なのです。この屋敷はなかなか広いですから部屋を覚えるのが大変だった事を覚えています……寧ろ残念な事にそれだけしか覚えていません。


 ですから、自分の部屋と旦那様の部屋しか覚えてないのです。先程色々な部屋を覗いてきましたがどれも新しい奥様の部屋ではないようです。




 こうなったら旦那様の部屋にずっといましょう。そうすればいつか奥様を見れる筈ですので。二人を引き裂く呪いでも考えましょうか。



 心配なのは幽霊にそんな力が本当にあるのかという事ですね。正直、壁を通り抜けられてふわふわ浮ける以外特別な事があるようには思えません。


 しかし、私がこうして幽霊になったのも神様が与えてくれた復讐の機会なのでしょう。有難く利用させていただきますわね。





 そろそろ浮いて移動するのも慣れてきましたね。もう旦那様の部屋に着きました。




 ヨゼフさんはいらっしゃらないようね。


 旦那様は相変わらず仏頂面でお仕事ですわ。

 私、暇ですわ。どうせ聞こえないのだから話しかけてもいいわよね?



「旦那様ー!聞こえますか、可愛い可愛い幽霊が呪いに来ましたよっ!」



 叫んでも聞こえてる様子は全くないわね。



「もう、お仕事の邪魔しますよー?」


 反応が無いことをいいことに旦那様の資料を掴む……勿論掴めることも無く手が虚しく宙を掴むだけ。


 無視は慣れているわ。追い出されないだけマシね。


 この部屋には入れて貰えなかったものね。


 私が腕を磨いて淹れた紅茶を持っていこうとした時、扉を開けることなく追い返されたのよね。でも、それが久しぶりの会話だったから少し嬉しかったような気がするわ。


 好きの反対は嫌いじゃないわ。無関心。そう、一番辛いのは無関心。相手にとって自分は視界に入ることも無い存在。とても辛いわ。今の私がまさにそうね。でも、これは本当に見えないから仕方がないのだけれどね。



「そんな顰め面では綺麗な顔が台無しですよ!奥様に嫌われてしまいますよ。」


 調子に乗ってそう言ったら、気のせいかさらに眉間のシワが濃くなった気がするわ。難しい内容の仕事なのかしらね?私が手伝えたら少しはこの目の下の隈も消えるのかしら。


 カミル様に私の姿が見えたらいいのに……いえ、見えたらここには居られないので見えなくていいのかもしれません。


 少しだけ、もう少しだけ貴方の傍にたとえ気づいて貰えなくても居たいのです。


 思った以上に冷たい貴方に私は恋をしているまま。このままでは成仏出来ないかもしれないわ。





「はぁー。疲れているようだ。」


 大きめの溜息に少し驚いてカミル様の方を向いた。やはり、よく見ると顔色も良くないし健康的には見えない。



 大丈夫かしら?ヨゼフさんも休んだ方がいいって言ってらしたのに。




「疲れているのなら休んだ方がいいですよ。疲れている時にやっても捗りませんしね。」


 聞こえない相手に紡ぐ言葉は無意味だと分かっているのに生前でも言わなかった言葉が口から零れる。夫を支える妻に憧れていたのかもしれないわね。



 カミル様は徐に立ち上がったと思うとベッドに座った。私の想いが届いたのかしらね。幸せな偶然だわ。まるで言葉が届いたような気がして。



 呪うはずだったのに彼の幸せを願いたくなってしまうのは何故でしょう?愛と憎しみは紙一重。そういう事でしょう。




「ミレナ……君はどうして……」



 ん?今、旦那様なんと言いました?それも本当に切ない声で。


 ミレナは私の名前ですよ。もしかして新しい奥様もミレナさんですか。なるほど。ミレナに縁があるようですね。同じミレナさんに呪いは掛けたくないような気もするわ。



「ミレナですよ。旦那様、お疲れ様でした。」


 なんだか疲れていそうで見えなくても人が居るのは嫌でしょうからそれだけ言って部屋を出た。



 彼が言っているミレナは私ではないだろうけれど、初めて呼んでもらえた名前。聞こえないのだから返事するくらい許して欲しいわ。





 ふわふわ漂ううちに着いたのは……あら?厨房ね。


 自室に向かったつもりでしたけど失敗みたい。


「旦那様ずっとあの調子ね。奥様が亡くなって一年だというのに。」


「仕方ないわよね。」


 話していたのは侍女達だ。あの調子?それはどの調子?普段の姿を知らない私には分からないが新しい奥様に現を抜かしているということかしら?




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