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一日目

 

 こんにちは幽霊です。え?何を言ってるのかですって?


 まぁ、普通そう思いますよね。私も幽霊やら生まれ変わりやら全く信じないたちでしたので。呪いだと騒いでいる人に呆れていましたがあながち嘘ではなかったようですわ。



 こんな形で幽霊が本当に居たということを知れても何も嬉しくないですけどね。未練があると幽霊になるそうですわ。



 私はまさしく未練がありましてよ。女の未練なんて言わなくても想像がつきますよね。単純な話。私は配偶者?旦那様?に愛して貰えなかったのよ。どんなに彼を思っても彼は冷たいまま。私は一目惚れでしたけどね。



 政略結婚でしたもの、愛して貰えないのも当たり前と言えばそうなのかもしれないわ。しかし、いつかは愛して貰えるとどこかで期待してしまうでしょう?



 折角、幽霊になったのですから彼を呪うと決めました。何時だって彼は私を見てくれませんでした。あんなに思っていたのに何をしても駄目でした。ですから、今頃どこかの可愛い御令嬢と結婚して幸せになった彼を呪ってやりますわっ!



 私を愛してくれなかったのは彼に想い人がいたからだと予想しています。一度聞いて、とても怒られたことを覚えてますわ。あの時の剣幕は恐ろしかったわ。




 さて、そろそろ久しぶりに愛しい愛しい旦那様のお顔を見に行ってやりますわ。


 私が死んでしまった場所からは少し遠いですのよね。でも、この霊体ではふわふわ浮いて簡単に着けそうです。あの時もこんな感じに浮けたら死にませんでしたのに。




 誕生日の日にドレスを新調しようと有名な店まで行く途中私を乗せた馬車は真っ逆さまに落ちていきました。死ぬ直前の事など殆ど覚えていませんけどね。早道だと言って足場の悪い道を通った罰でしょうかね?



 今更どうでもいい事ですね。それに誕生日に死ぬなんて、命日と一緒で覚えやすいでしょう?だからなんだって話ですけどね。祝ってくれる旦那様もいないかったので別に関係ないと言えばそうなんでしょうけど。



 

 こんな無駄なことを考えているうちに着いてしまったようですね。全く良い思い出のない我が家に。


 旦那様は今もここに住んでいるでしょう。この辺りを治める公爵様ですから。お仕事もさぞ忙しいでしょう。妻を放っておくくらいには。それとも今の奥様には愛を囁いているのかしら?



 まぁ、見ればわかることですわ。



 失礼致しますわ!


 なんて言っても誰も分からないわよね。いつもは開けるのが憂鬱だった重たい扉も簡単にすり抜けることが出来る。


 うーん。少し汚くなったかしら?私が綺麗好きで掃除をしっかりしていた頃より埃が溜まっているようね。新しい奥様は綺麗好きではないのね。きっと私と正反対の可愛らしい人なんでしょう。


 幽霊になった今傷つくこともないと思いますけど旦那様の様子を見に行くのは緊張しますね。


 一度も入れて貰えなかった彼の部屋。入るのは初めてです。生きている私は入れて貰えなかったのに……。なんだか悲しいものですね。



 躊躇わず装飾の施された扉をふわりと抜ける。



「カミル様、最近仕事を詰め込み過ぎですよ。お身体に障ります。」


「いや、大丈夫だ。」


 入った瞬間、聞こえたのは愛しの旦那様のカミル様と従者のヨゼフさん。相変わらず仕事とは仲が良さそうですね。ヨゼフさんの忠告を無視して黙々と資料に目を通しているわ。昔から確かに仕事におわれていましたから、しかし奥様との時間はとらなくていいのかしら?


 きっと私が死んでから想い人と一緒になれたのでしょう。そんなんでは嫌われてしまいますよ?余計なお世話かもしれませんがね。


 ふわふわと身体が浮くのは案外動きにくいですわ。カミル様に触ってもすり抜けてしまうのかしら?


 少し試してみたくなりますね。あちらから私のことは見えないのですから怒られることもないでしょうし……


 そう思い伸ばした手は簡単にすり抜けてしまったわ。カミル様の綺麗な黒髪も色白の肌も触ることは出来ません。これは幽霊になったからでは無いのですけどね。生きていた頃ももちろん触れる事など出来ませんでしたよ。死んでから願いが叶うなんてないでしょう?死んでいても生きていても結局は同じなのよ。



 私の姿が見えるなんて方いらっしゃらないかしら?幽霊なんて面白そう!と思ったのはほんの一瞬ですわ。考えてみたら誰にも見えないのだから話し相手もいない。退屈です。



 仕方ないわね。カミル様を呪ういい方法でも考えましょう。


 先ずは私の部屋に行きましょうか。既に片付けられている可能性の方が高いでしょうけど。





 久しぶりに見た旦那様は何も変わっていませんでした。少しでも変わっていればもっと憎めたのかもしれません。奥様と楽しげに過ごしていればいい呪いも思いつきそうですわ。しかし、彼本当にあの時と同じです。初めはあの瞳に見つめて欲しくて……だんだん愛されない事に気付いてそれでも横顔を見れればいいなんて思って……懐かしいですわね。



 凛とした横顔も真剣な様子で仕事を熟す美しい瞳も全くお変わりない。でも、少しだけ痩せたように見えましたね。お茶の一杯でも出して差し上げたいのに今の私には何もしてあげられません。それに、受け取っても下さらないでしょう。私が厨房に立つことも嫌っていましたので。


 でも、ヨゼフさんに教わったのですよ?カミル様のお好きな紅茶の美味しい淹れ方。披露する機会はありませんでしたけどね。



 ふわふわ漂って着いたのは元私の部屋。


 今はどうなっているのかしら?一年もたてば片付けられて私がこの屋敷にいた痕跡も何もないのでしょう。


 開けたくても開けれない扉をすり抜ける。



 部屋の中は驚くくらいそのままですわ。興味もなくて放置ということかしら?


 あら?それにしては埃もなく綺麗な気がしますわ。いつでも誰かに譲れるように綺麗にしているのかしらね。


 ふかふかのベッドもそのまま。思いりきり布団にダイブしてみましょうか。生前では絶対に出来ない事ですね。




 やはり幽霊では何も感じません。折角のふかふかの布団も全く手触りも分かりません。ベッドに寝転がってみても何も気持ちよくありません。生きていた頃は寝る前に毎日色々考え込んでましたね。


 思い出したくもありませんけど。久しぶりの……と言ってもどうやら一年近く私が死んでから経ったようですが私には時間の流れも感じませんので分かりませんね。


 眠たくもありませんが少しだけ休みましょうか。明日には新しい奥様を見てみたいですしね。




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