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隣で眠る彼は  作者: 青木りよこ
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お酒

叔母さんと律さんと三人で歩いて一番近くのスーパに行った。

叔母さんは一目散にお酒のコーナーに行き、買い物かごに赤い缶、青い缶、黒い缶、金銀紫とまるで色を揃えるかのように入れていく。

こんなにお酒ってあるんだ。

お祖母ちゃんは飲まなかったから、家の冷蔵庫にお酒があるのは叔母さんの来た時だけだった。

叔母さんは買い物かごをカラフルにするともう一つかごを取りお酒のコーナーを後にした。


「すき焼きと何食べる?」

「叔母さんの食べたいものでいいよ」

「叔母さんはお酒さえ飲めたらいい。アイスとかお菓子いらない?」

「アイスは冷蔵庫にあるからいい」

「そう。律さんは?」

「私もいいです」

「叔母さんはアイス買おうっと。血液どろっどろにしてやるんだ。お肉いっぱい食べようね」

「うん」


すき焼きの材料とアイスクリームとお酒を三人で手分けして持った。

ふとこんなに沢山の缶冷蔵庫に入りきるだろうかと思ったが、まあ何とかなるだろうと思った。

家に帰ると叔母さんは買ってきたお酒をまず冷蔵庫に入れ、家に来ると使っている叔母さん専用のビールジョッキを冷凍庫に入れた。


「私すき焼きの準備しますので叔母さまお風呂どうぞ」

「えー、悪いよー」

「たまにはゆっくりしてください。仕事もして家事もしてお疲れでしょう。せっかくの実家なんですからのんびりしてください」

「そんなあげましょ、さげましょな生活していいのかなー。後が怖いわ」

「いいんですよ。たった二、三日のことじゃないですか」

「うーん、ありがと。じゃあエアコンでキンキンに冷やした部屋ですき焼き食べようね」

「はい」


凄い接待ぶりだな。

何考えてるんだろう。

お祖母ちゃんが生きている時もこんなだったっけ。

前は叔母さんの子供達を連れてきたりもしてたけど、いつの間にか皆小学校に上がって、スポ少で野球を始めたとかで来なくなっちゃったもんな。


三人ですき焼きを食べながら叔母さんが家から持ってきたドラマのDVDを見る。


「家じゃあさ、ドラマ見れないんだよね。子供達が見たいもの見るから、旦那のさ、お母さんとお父さんが出かけてくれるとさ、テレビが空くんだよね、でも一年に二回だけでさ、一年にさー、春と秋だけ旅行に行くのよ、必ず。たった二泊三日なんだけど、その期間は天国だよね。たった二人いないだけなのにご飯の用意すっごく楽な気がするの。別にいない方がいいってわけじゃないのよ。今日だって子供達の面倒見てくれてるからこうして泊まりで家空けられるわけでさ、でもたまには出かけてほしいんだよね。申し訳ないけど、子供達と旦那とだけで暮らせたらッて思う時があるのよ、どうしても」


叔母さんはお酒、すき焼き、お酒、お酒、お酒のローテーションを繰り返している。

まあつまりすき焼きをほとんど食べていない。

せっかくそこそこ高いお肉を買ったというのに。


「毎日さ、お弁当作ってさ、水筒にお茶まで入れてんのよ。妹の分も。お茶ぐらい自分で入れたらって思うのよ。もしくはお茶なんかいくらでも売ってるんだから買ったらいいのに。毎日毎日また月曜日から会社だから、また始まるんだよね。まあ三人分も二人分も一緒だけど。でもいつまで続くんだろうって、食費もさ、三万くらい入れてくれてもいいと思わない?正社員なんだし、家から通って毎日お弁当と水筒持ってってさ、お金かからないじゃない。休みの日も用事がない限り出かけないから、その分のお昼がいるわけで、結構食べさせてるわけよ。なのに二万って。それをさ、旦那がお母さんに言うと―、お母さんが言うには、翠ちゃんは成人式の着物も買ってやらなかったし、大学だって家から通える国立しか許さなかったし、小学校の頃バレエ習いたいって言ったけど習わせてやらなかったから可哀想だったって言うのよ、それに一生結婚しないだろうからお金貯めとかないとって。わかるわよ。それはわかるわよ。でもそれにしちゃお金使ってるわよ。一人で何か聖地巡礼とか言って箱根行ったり岩手行ったりしてんのよ。通販でしょっちゅう買い物してさ、お部屋わけわかんないアニメの人形で溢れてるし、家にいる時は携帯でゲームばっかりしてて、お皿一つ洗わないのよ、信じられる?しょっちゅう声優のコンサートに行ったりして、イベントとかで東京行ったりするくせにお土産一回も買ってきてくれたことないのよ。私はいつもどこに行っても買ってきてるのに、別に東京バナナが欲しいわけじゃないけどさ、酷いと思わない?」

「うん」

「そうですね」

「でも嬉しいな、お酒こうやって飲めて。家じゃあさ、何か遂ぽろっと言っちゃったりしたらどうしようって思うと飲めないんだよね。スーパーってさ、しょっちゅう正社員の移動があるから最低でも一年に一回は必ず送別会があるわけよ。でも酔えないからさ、ウーロン茶ばっかり飲んじゃうんだよね。人前で

酔うの怖いんだー」

「うん」


カワウソが冷蔵庫で冷やしたおいた梨を剥いた。

叔母さんは果物なんて全然あたんないんだからと言いつつお酒ばかり飲んで結局一切れも食べなかった。

私は祖母を失ったけど、叔母さんはお母さんを失ったんだなと思った。

私は今の叔母さんと同じ年になったとしても母を失ったとは思わないだろうなと思った。

そうなると私はもう何も失わずに暮らせるんだと思い、心がふわふわと軽くなり、冷蔵庫からアイスを出してきて食べた。

美女にその容貌に劣らぬ美しい声で食べ過ぎですよと言われたが、気にせず食べた。

何とも言えず気分のいい夜で、お酒は一滴も飲んでないのに酔うということはこういうことかと思った。





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