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隣で眠る彼は  作者: 青木りよこ
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友達

朝ごはんを食べて、部屋に戻ろうとするとカワウソに呼び止められた。

米を買いに行くのでお供しなさいと。


「じゃあさ、駅前まで行こうよ」

「お米と今日の夕飯の買い物だけですよ。近所のスーパーでいいでしょう」

「休みだし、たまには買い物したい」

「じゃあ、そうしましょう。待ってますのでさっさと着替えてください」

「うん」


二人で自転車に乗って出かけた。

駅前の映画館の入ったショッピングモールはたまにお祖母ちゃんと行った。

二人で洋服とか下着とかを買ってフードコートで昼食を取って本屋に寄って食料品の買い出しをして帰った。

今お祖母ちゃんの自転車に乗った美女の視線を背中に感じながらペダルをこぐ。


「自転車でどれくらいですか?」

「二十分くらいかなー」

「いつも自転車で?」

「うちのお祖母ちゃん免許持ってなかったからいつもどこに行くのも自転車だったよー」

「それは大変でしたね」

「うん、風気持ちいいねー」

「はい」


自転車に乗って後ろに人がいるのは初めてだ。

いつもお祖母ちゃんの背中を見ていた。

あの背中をもう見ることはない。


ショッピングモールに着くとカワウソはすぐさま食料品売り場に行こうとしたので慌ててその白い腕を掴む。


「楓、何か欲しいものでもあるんですか?」

「何で?」

「楓がここに行きたいと言ったんでしょう?」

「別にない。ただ最近お祖母ちゃんとも来てなかったから。ねえ、映画でも見ない?」

「見たい映画でもあるんですか?」

「ううん。ないよ。ただ私映画館入ったことないなって」

「一度もですか?」

「うん。お母さんとはどうだったか知らないけど、お祖母ちゃんに連れてきてもらったことはないし、一人でもないよ。友達もいなかったし」


美女になったカワウソは憂いを帯びた複雑な顔をして見せ、その顔立ちの評価を益々高めていった。


「そうですね。映画でも見ましょう。私も長いこと見てませんし」

「見たことあるんだ?」

「ありますよ。ずっと昔ですけどね」

「そっか」

「何見ます?」


ショッピングモールの入り口に上映中のポスターが貼ってあるがどれもあまり見る気はしない。


「貴方が見たいのでいいよ」

「私はどれも余り見たいとは思いませんので楓が見たいのでいいですよ」

「うーん」

「アニメでいいんじゃないですか。貴方こういうの好きでしょう。ゲームあんなに頑張ってやってるじゃないですか?」

「ゲームは好きだけど、アニメは興味ないんだよね」

「どう違うのか私にはわかりませんが」

「アニメもミュージカルも怖いのも好きじゃないから、困るなあ」

「困りますか?」

「うん。見るものがない」

「じゃあ、映画を見る必要はないんじゃないですか?」

「でもここで映画見ないと一生映画館で映画見ない気するんだよね」

「まあ、そうかもしれないですね」

「まあいいや、これ見よ」


私はアメリカのアクション映画のポスターを指さす。


「私はいいですけど、字幕読むの面倒じゃないですか?」

「貴方私のことどれだけ怠惰だと思ってるの。読むわよ。字幕くらい」

「そうですか。私は何でもいいですよ。でもいいんですか。初映画。もっと思い入れの持てそうなものにしなくて」

「そんな特別なことじゃないでしょ。さらっとしたいの。何でもないことなんだから」

「そうですね。映画くらいいつでも見に行けますよ」

「うん。行こう」


私達は並んで映画を見た。

途中から字幕を読むのが面倒になったのと快適な座り心地に私は結局は寝てしまい、美女に優しく揺り起こされることとなった。


「どこまで起きてました?」

「主人公がヒロインに別れ話を切り出されるとこまで」

「すぐ寝たんですね。わりと面白かったですよ」

「それなら良かった」

「どうします?何か食べますか?」

「食べよう。いつもお祖母ちゃんとはお昼ごはん食べて本屋に寄って夜ご飯の買い物して帰ったの」

「そうですか。じゃあ何食べます?」

「それこそ貴方の食べたいものでいいよ。付き合わせてるんだし」

「何も食べたいものなんかないですよ。楓が決めてください」

「じゃあ、ハンバーガー食べたい」

「いいですよ」

「アイスも」

「いいですよ。行きましょう」


ハンバーガーを食べアイスをダブルで食べて少しだけ本屋に立ち寄りお米とお肉やらお魚やら野菜やらを買い込み家に帰った。

ふと私達は他人の目にどう映っているのだろうかと思った。

私達は似ていない。

年だって少し離れて見えるだろう。

私と祖母はそんなに似ていなかったけど、年齢差から祖母と孫なのだということは一目瞭然だった。

誰に聞かれたとしてもお孫さん?だし、お祖母さん?だろう。

でも私と美女はどうだろう?

この関係を何と呼べばいいのだろう?


「またゲームですか?」


お風呂から上がりベッドに寝ころんでいた私をつぶらな漆黒の瞳が見つめている。

どうやってその毛並みを乾かしているのだろう。

私の後にお風呂に入ったはずなのに速乾性なのかしら、カワウソの身体には湯上りの水気が感じられない。

それなのに同じシャンプーの匂いはする。

不思議。


「だって明日もお休みだもん」

「何がそんなに面白いんですか?」

「強くなってくのがわかるから。成長を感じるんだよね。今まで長いこと倒せなかった敵がちょっとの時間で倒せるようになった時とか嬉しいんだよ」

「わかりませんね。まああんまりやりすぎは良くないですよ。目に悪いです」

「他に身体に悪いこと何にもしてないから大丈夫」


カワウソは私の携帯を覗き込む。

私の携帯はのぞき見されて困るものなど一つも入っていない。

落としたとして困るとしたらゲームのデータだけだけど引き継ぎパスワードがあるから大丈夫だろう。

ゲームのIDとパスワードだけは紙に何枚も書いて机の引き出し一つ一つにしまってある。


「妖怪とか出てこないんですか?」

「妖怪はないかなー。精霊は出てくるけど」

「よく喋りますね」

「ゲームだからね」

「火が出るんですね」

「出るよ」

「すぐ倒せるんですね」

「これは弱い奴だから。強いのは時間かかるよ。一人じゃ倒せなかったりするし」

「勉強してます?」

「してるし、無理なとこ受けないし」

「そうですか」


何だか眠くなってきたので眠ることにして灯りを消した。

夜ご飯に餃子とエビチリでご飯を食べ過ぎたからだろうか。

今日もカワウソは執念のように白いご飯を大盛りにして私に差し出したのだ。


「楓、寝たんですか?」

「ううん、起きてるよ」


暗くて何も見えないけど、黒い瞳が同じように天井を見ているだろうことだけはわかる。


「今日はありがとうね。楽しかったよ」

「寝てたのにですか?」

「寝てても。映画館行ってみたかったんだよね。でも一人で行く気になれないし」

「それなら良かったです。他にしたいこと有りますか?」

「わかんない。でも多分あるんだろうなー。今眠くて思いつかないけど」

「思いついたら言ってください。付き合いますよ」

「ありがとう。何か私達って・・・」

「はい?」

「何でもない。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


私達って何だろうね?

その答えをカワウソは知っているのだろうか。

友達?

それとは違う気がする。

友達が主にどんなものかはわからないけど。

でも隣にいると心地よくてよく眠れる。

それはどんな存在だろう?

闇の中に貴方の声があると落ち着く。

ほんの少し前までそれは影も形もなかったのに。

今はまるで自分の中に話しているみたいに何でも話せる気がする。

隣で眠っている時の彼になら。








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