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隣で眠る彼は  作者: 青木りよこ
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拾った

律が台所でジャガイモを剥き始めると、ミラさんはお構いなくと言い、あたしコロッケ大好きと付け足した。


「構いませんよ。それにコロッケじゃなくてホワイトシチューです」

「毎日三食作ってんだぜ。カワウソの奴」

「そっか、偉いなー。あたしも鉄鼠が忙しそうにしてる時は作るよ。でも三食はしないなー」

「貴方達と違って楓は人間ですからね。食べさせなきゃならないんです。まだ成長期ですしね」

「丸々と太らせて妖怪王に献上しようとか思ってんのー?」

「思ってませんよ。ミラ、コロッケが食べたいんですか?」

「うん。食べたい」

「玉ねぎもありますし、合いびきもありますし、してあげてもいいですよ」

「やったー。そういや朝から何にも食ってねえんだわ。何にも持たないで出てきたからさー」

「どうやって奈良から来たんですか?」

「走って。妖怪だもん」


愚問だった。

どう見ても見た目は人間だから妖怪だというのを遂忘れてしまう。

律のように見た目まんまカワウソだったらそうでもないんだけどな。

せめて猫耳生えてるだとか、しっぽ生えてるだとか、語尾にニャーニャーつけるとかしてくれたらいいのに。


「それより、人間の子供を拾ったというのはどういうことですか?」


律は私達に背を向けたまま玉ねぎを切っているので表情は窺えない。

まあ見えたところで何考えてるかなんて全然わかんないんだけど。


「拾ってきたんだよ。鉄鼠が。落ちてたからって」

「落ちてたもの拾ったって、赤ちゃんですか?」

「いんや。ようちえん?くらいじゃね」

「そんな年の子が落ちていた、おかしくないですか?」

「知らねえよ。ガキなんも喋んねえし。でも落ちてたんだからゆうかい?にはならんよな?」

「なるでしょう、未成年者略取」

「そうなんか」

「こっそり交番の前に置いといたらいいんじゃねえの?」

「鉄鼠が二人で育てたいって」

「そもそもそんな大きな子が落ちてるってのも妙な話です。本当に落ちてたんですか?」

「うん。そうらしいよ」

「今のところその子供は元気なんですか?」

「ああ。飯も食ってたし、喋らない以外は元気なんじゃね、多分」

「どういう事情でそうなったかはわかりませんが、子供は物じゃありませんよ。落ちてたからと言って拾って育てていいわけありません。もしその子が自分で家を出て帰り道がわからなくなり迷子になって行き倒れていたのだとしたら、本当の親御さんはとても心配しています。それこそ寝ないで探しているはずですよ」

「わーってるよ。じゃあカワウソが鉄鼠に言ってよ。つーか、包丁持って振り返らないでよ。シルバニアファミリーな見た目してるくせに怖えわ」

「シルバニアファミリーなんて知ってるんですね」

「知ってるわ。どんだけ長いことこっちいると思ってんだ」

「楓が生まれる前からあたしらこっちにいんぞ」

「そうなんだ」

「でもさ、普通に考えて空き家の庭に子供が落ちてるなんておかしくない?」

「それ先に言えよ」

「だって」

「だってじゃねえよ。それこそ警察の仕事だろーが」

「そうだよね」

「そうでしょうね」

「あの、どうして空き家に?」

「空き家見るのはあたしたち妖怪の趣味みたいなもんだから」

「私は妖怪ですが空き家を見る趣味もなければ、人の家の二階に勝手に間借りする趣味もありませんよ」

 

でも人の家勝手に入り込んでたよね。

そういえば、そもそもどうやって入ったんだろう。

あの日鍵は完全に閉まっていたのに。

壁抜けでもできるのかしら。

余りにも堂々としてたから咎めることすら忘れていた。

学校から帰ったらまるで前世からそうしていたように台所にいたから。

律と一緒に暮らし始めてもう一年以上経つんだ。

時の流れって凄い。

だって律のいない暮らしなんてもう考えられない。


「どのみち鉄鼠はもう来るでしょう」

「うん」

「ミラ、貴方は鉄鼠と一緒には暮らしたいんですね?」

「うん」

「でも子供を一緒に育てるのは無理だと?」

「うん。だって無理だもん。人間の子供なんて」

「それならいいですよ、じゃあ鉄鼠が来たらコロッケ揚げましょう。揚げたてが美味しいですしね」

「じゃあ、それまで飲むか」

「お姉」

「そんなしょげた声だすなよー。もう酒飲んで忘れようぜー。ガキ一人くらい何とでもなるだろ」

「そうかなー」

「そうだって、飲んだらいい案思いつくかも」

「まあ、そうか。飲もう」

「おー、飲め飲め酒ならある。売るほどある」

「売るほどないでしょ。買ってこようか?」

「一緒に行くわ。あー、でも服かえんのメンドクセーナ」

「着替えるわけじゃないんだからいいじゃん」

「その必要はなさそうですよ」

「あー?」

「鉄鼠が来ました。お酒も買って来てるみたいですよ。両手に荷物抱えて、子供をおんぶしているみたいですね」


世界一かっこいい声でそんなことを言う律だが手にはお玉が握られててて、シチューの味見をしなさいと小皿をそっと私に差し出した。


「美味しいよ」

「そうですか。じゃあもう味足しませんね」

「うん」


籠城戦が始まるみたいだ。

丁度おあつらえ向きに風が出て来て、雨も降りそうだ。

メイさんとミラさんは黙って椅子に腰かける。

チャイムが鳴る。

鬼なのか蛇なのかはわからない。

ただわかっているのはドアを開けたらいるのはネズミの妖怪とその背に担がれた人間の子ども。

アイアンボディで、優しい、猫又のミラさんの恋人。

名前はまだ知らない。





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