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隣で眠る彼は  作者: 青木りよこ
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鉄鼠

鉄鼠と猫又。

ネズミさんと猫さんの組み合わせってどう考えても猫さんの方が強そうだけど。

実際戦ったらどうなんだろ?


「何で鉄鼠と?」

「アイツも奈良住んでてさー、婆さん家からそんなに遠くなくってさー、何か知らんけど時々ふらっと現れるんだよな。で、酒くれたりしてさ、ほらこっちはさー、婆さんの年金あてにして暮らしてるから肩身が狭いっていうか、懐がいつも寂しいっていうか、まあそんなんだったわけよ。で、婆さん死んだ時雨降ってたんだよ。あたし濡れるの嫌だからさー、そしたらアイツが傘持ってタイミングよく現れたわけ。まあ今考えたらあんないいタイミングで現れるわけないよな。アイツどっかであたしのこと見張ってたのかな。雨もアイツが降らしたんじゃ」

「鉄鼠にそんな能力ないでしょ」

「まあ、そうか。で、泊めてもらってさ、酒飲ましてもらって、まあ一宿一飯の恩義っていうか、股貸してやったんだよ。猫又なだけに」

「面白くないからな」

「うん。わかってる。でさ、そしたら次の日から彼氏ヅラするようになってさ、あたしもさ、また住むとこみつけんのメンドクサイナーって思ってたし、酒いくらでも飲ましてくれるし、美味いもん食わしてくれるし、まあいいかなーって思ってたんだよ。でもさー」

「でもさー?」

「二人でさー、暮すぶんにはさ、いいと思ってたんだよ。鉄鼠は優しいし、顔も好みだし、鉄鼠なだけに脱いだらアイアンボディだし、酒飲ましてくれるし、婆さんが生きている時も障子張り替えてくれたし、まあ色々世話になってるし、正直嫌いじゃない。酒飲ましてくれるし」


二回言うんだ。

そんなに飲ましてくれるっていうのは重要なのだろうか。

彼氏の条件として。


「でもさー、昨日やっぱり無理だと思ったわけ。それで逃げて来たんだよ」

「そっか」

「でもお金もないし、野宿嫌だし、そしたらそういやお姉こっちの方住んでたなって思い出して気配辿って来たんだよ」

「そっか。なあ、鉄鼠追っかけてくんだろ、多分。どうすんの?」

「カワウソいんだろ。アイツ強えからなんとかなるん、じゃね?」


強いんだ、律。

私のことじゃないのに不思議と誇らしく身体がひとりでにポカポカしてくる。


「私は戦いませんよ」


いつの間に帰っていたのか律が背後に立っていた。

冷蔵庫に買ってきたものをしまうと、そのままひょいっと私の隣の椅子に座り、アーモンドチョコの箱を開け私に差し出す。


「あー、カワウソ―」

「カワウソ―じゃありませんよ。私は戦いません。あてにされたら困ります」

「こんな可愛い子猫ちゃんが困っててもか。鬼」

「鬼じゃありません。カワウソです。私は自分のためにしか戦いませんよ。痴話喧嘩に巻き込まないでくださいね。この家の物一つでも壊したら三万いただきますからね」

「高え」

「高くないです。私は壊したものは元には戻せませんからね、当然です。家に泊めるのは構いませんが喧嘩になりそうなら県外に行ってください」


そんな大規模な喧嘩するの。

それは家でやってもらっちゃ困る。

せっかくお祖母ちゃんが残してくれた家が吹っ飛んじゃう。


「だってさー」

「だってさーじゃないですよ。取りあえずテーブル片付けなさい」

「まだ飯じゃねえだろー。こうやって飲み終わった缶並べておくのが好きなんだよー」

「お姉並べてないから、ぺしゃんこだから、墓場?」

「あー、まあいいや。今日はジャンジャン飲むぞー」

「毎日飲んでるでしょう。まあいいですよ。部屋空いてますしね」

「ありがとー。ついでに鉄鼠が来たら説得もお願い」

「説得って、貴方を諦めろってですか?嫌ですよ」

「そうじゃなくってさ、諦めなくていいよ。二人でなら暮らしたいんだよ、ずっと」

「じゃあ何で出てきたんです?」

「それがさー」


ミラさんはアーモンドチョコを一粒口に放り込む。

しんと静まり返った部屋にアーモンドが砕ける音がする。

何かの合図ののように。


「鉄鼠がさ、ガキ拾ってきちゃったんだよ。人間の」


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