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隣で眠る彼は  作者: 青木りよこ
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入れ替わり

鬼火と名乗る黒髪ボブの女性が語るにはこうだ。


ある日ぶつかった拍子に彼女の体と入れ替わってしまった。

しょうがないので鬼火が川村さんとして生活していたが妖力が尽きそうになり境目の世界に帰らなければならない。

さてどうしよう、ということらしい。


「どうもこうも、帰ったらいいじゃないですか。妖怪王の所へ行けば入れ替わりだって直してくれますよ」

「元に戻りたいわけじゃない。妖力さえ満タンにできたらいい」

「戻りたいわけじゃないって、戻らないと川村さんが可哀想でしょう」

「もう随分長いことこの生活が続いている。今更戻すのも可哀想だ」

「長いことって何年ですか?」

「十五年だ」


それは長い。

四歳の子が十九歳になる。

ということは、川村さんが三十歳と仮定して半分の人生を鬼火さんが生きていたのか。


「何でそんなにほっといたんですか」

「つい」

「ついじゃないですよ。何ですか、女子高生がやりたかったんですか?」

「そんなわけあるか。ただ俺のせいなので与えられた仕事を全うしていただけだ」

「まあ、貴方のせいですよね。妖怪と人間が関わって人間のせいってことはまずないですからね」

「ああ」

「で、何で家に?」

「三人寄れば文殊の知恵って言うだろう」

「我々妖怪ですが」

「帰るにしても、その間家を空けなければならないだろう。そもそも妖怪王にだってすぐ会えるかわからない」

「まあそうですね」

「何年も待つことになるかもしれない」

「そうですね」

「そんなに家を空けるわけにはいかない。仕事もあるし」

「まさか結婚して子供がいるとか?」

「それはない。両親と三人暮らしだ」

「旅行に行くとかでいいんじゃないですか?」

「その間連絡がつかないと警察に捜索願を出されてしまう」

「海外に行くってことにしたらどうですか、携帯も使えないような」

「そんなところ行くなと言われる」

「でもこのままじゃどのみち妖力が尽きてその姿を保てなくなるでしょう」

「ああ、それは困る」

「そもそも鬼火貴方はどうしたいんですか?」

「これからも川村美波として生活したい」

「貴方はそうでしょうけど、川村さんはどうなんですか?」


律が本当の川村さんが入っているという青白い炎を見つめる。

メイさん以外の目が一斉に注がれると青白い炎ははらはらと涙を零した。


「美波、泣かないでくれ。あんたに泣かれると俺も悲しい」


黒髪ボブの女性が鞄からハンカチを出し青白い炎の目元を拭ってやる。

ハンカチ燃えたりしないんだ。


「私が悪いんです」


聞こえてきたのは少年誌の主人公のライバルのような危うさと冷静さの同居する愛と正義を余り信じていない声。

これは鬼火さんの身体に入った川村さんが話している?

ということは鬼火さんの本当の声?


「私が悪いんです。全部」

「美波は悪くない。俺が悪い」

「私です。私があんなことしたから」

「仕方がないことだった。他に方法がなかっただけだ。気にするな」

「私が悪いんです。でも、もう戻りたくない」




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