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隣で眠る彼は  作者: 青木りよこ
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ウィルオウィスプ

夏休みが終わり学校が始まると律に夜遅くなると暗くて心配だからと言われたので結局バイトは土日祝日しか入れなくなった。

いつになったら旅行に行けるくらい貯まるのやら。

今日もバイトを終え家に帰りうがいと手洗いを済ませ台所に入ると、見たことのない黒髪ボブの女性が椅子に腰かけている。

彼女の隣の椅子は空席になっており、テーブルにはゆらゆらと揺れる青白い炎がちょこんと腰かけている様に見える。

どうやら妖怪さんらしい。


「お帰りなさい楓」

「ただいま」

「おっかえりー」


メイさんがこちらに背を向け椅子に跨りテレビを見ている。

最近帰るとよく見る光景だ。

今日は仕事が休みなのだろう、テーブルには青い缶が三つと赤い缶が一つとおにぎりせんべいと牛丼が乗っていて、青白い炎さんは恐らく目であろう金色に光る二つの丸でじっとメイさんが飲み干したビールの缶の成分表を見ている。


「ウィルオウィスプ?」

「よく知っていますね」

「ゲームでよく見るから」

「鬼火です」

「そう」

「お前座る?」

「あ、ううんメイさんテレビ見てるんならいいよ」

「いい、こっちで」


メイさんは律の隣の椅子からまだ名前も聞いていない黒髪ボブの女性の隣に座り、牛丼を一口食べ、立ち上がり冷蔵庫へ向かう。


「飲む人ー?」

「飲みますか?」


律が目の前の黒髪ボブの女性に聞くと女性は首を横に振り、鬼火さんも身体を横に揺らしたように見えた。


「何だよ、あたしだけかよ。お前なんか飲むか?」

「じゃあ、ウーロン茶」

「おー」


律の隣に座りまだ名前も名乗っていないことに気づく。

それどころかこんにちはすら言っていない。


「あの、石原楓です」


私が頭を少し下げると律の前に座る女性と鬼火さんもぺこりという擬音が聞こえそうな会釈を返してくれた。

ベージュのストライプのワンピースは落ち着きがあって黒髪ボブの女性によく似合っていた。

年齢は二十代の後半ってところだろうか。

ややつり目で、メイクのせいかもしれないけど勝気な印象を与える。

教官とお呼びしたい。


「これ、良かったら皆で食べてくれ」


黒髪ボブの女性はそう言って白い箱をテーブルに乗せた。

六花亭のバターサンド、私が大好きなやつ。


「北海道からいらしたんですか?」

「嫌、駅前で北海道物産展やっていたから、その帰りだ」

「そうですか、ありがとうございます。バターサンド大好きです」

「それなら良かった。急にお邪魔して済まない」

「いえ、そんな、お気になさらないでください」


随分とかっこいい喋り方だな。

上官タイプ?

メイさんは今日は珍しく缶チューハイを飲んでいて、土曜日の昼間らしくバラエティ番組の再放送がかかっているテレビを凝視していて、テレビから聞こえる笑い声や叫び声とメイさんがおにぎりせんべいを咀嚼する音だけがこの空間でこの世を心から楽しんでいる音に聞こえる。


「こちらは家主さんか?」

「そうですよ」


私の代わりに律が答える。

やっぱり新しい下宿人さんなのかな。

部屋まだ一つ空いてるし。


「見たところ十代とお見受けするが」

「十九です」

「そうか、俺は鬼火、こちらは川村美波」


人間みたいな名前なんだ。

あれ、俺はって言った?

こちらはって?

頭の中に疑問符が湧くとメイさんが大きな声で笑ったので少し驚く。

牛丼暖かいうちに食べたほうがいいのにと遂余計なことを考えてしまう。


「楓、わかってなさそうなので言っておきますが、こちらの人間に見える方が鬼火で、鬼火に見えているのが川村さんですよ。間違えないように」

「え?どういうこと?」


私は黒髪ボブの女性を見る。

その表情は冷静そのものだ。

その手元で揺れる青白い炎の方がよっぽど揺らいで見える。


「俺と彼女は入れ替わっているんだ」



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