”Nightmare Magician“ 下
敢えて難しいとされるキャラクターを使った。それは僕がこうして、彼を崇拝しながら彼に憧れながら、そしてなお真逆の道を進むために、彼を忘れさせないプレイヤーであるために秘密を守らなければならなかったからだ。
彼がランキング上から姿を消してから、どれだけ彼を探しただろう。時にはIPやアカウントIDまで特定して、名前を変えた可能性さえ考えて彼を僕は探し続けた。
彼は“Pair of birds”から忽然と姿を消していた。
彼はネット上で個人的な書き込みを一切しない傾向にあった。彼のプレイ動画は1本を覗いて他人が録ってアップロードしたものばかりだった。唯一、彼視点でアップロードされている動画は『魔法使い』というタイトルで、だがその投稿アカウントすら仮作成状態のままだった。彼はどのような人間だったのか、その情報すらどこにも落ちていない。公式チャットlogにも彼の書き込みはほとんどなかった。公式に宛てられた問い合わせメールまで探りを入れたが、それでも彼が送った形跡はなく、結局公式までハッキングしても彼のメールアドレスを手に入れられただけだった。
あれから彼に毎日メールを送っている、でも僕が送ったメールに返信はない。
彼は消えていた。今も消えたままだった。
どんどん彼のことは風化していった。あんなに人気だったプレイヤーなのに、配信もせずプレイだけで人を魅せた。それなのに、そんな彼ですら忘れられていこうとしている。
きっと僕なんかは、すぐに忘れられるはずだ。
1年も経てば、お手製のチートツールの扱いにも慣れてきた。最初は疑われたようで、以前のプレイングと違うとか明らかに入力が早すぎるとか、運営に問い合わせがあった。多少疑われたようだが、証拠がうまくあがらないのだから仕方ない。
公式のプレイ録画アプリと公式の認可だったキャラクターのビジュアルとエフェクトを変えられたり、色盲のプレイヤー向けに分かりやすいスキル設定に変えることができたりするアプリは、穴だらけだった。公式は複数のプレイヤーからの報告や集団での妖しいアプリ利用、公式認可ではないものの接続などで動く。
未だ、公式はこのチートツールに気づいていない。
スキルの入力を早くする、確定ダメージと大技以外のスキルをすべて避けることができる、かつもしも同時にスキルを打たれた場合でもよりクラウドコントロールの重いもの、ダメージが重いものを優先し避ける。その基準は、僕が設定している通りだ。
僕はスキルショットに集中すればいい。できるだけ動きながらスキルを打てるキャラを使えばバレない。
DreamMagicianだった彼は、きっとこんなことはしなかっただろう。一時流行った受けるスキルダメージを半減させる違法ツールだって、彼の順位を揺るがすことはなかったという。彼自身が、それを使用した形跡もない。
彼は本物だった。
きっと、とても優秀な人間だったのだろう。社会の中心核に違いない。彼は、今はいない彼は。
僕のフレンド欄は0人だ。今日もソロマッチで挑む。ランキングはもちろん1位。
彼の最大の敵だ、僕は彼の最高の敵だ。討ち果たすべき、悪。
それでも彼が今、あの現実ではなくどこかで夢を見ていることを願っている。いつか起き上がって、この止まらない僕を止めてほしい。
もう誰も、止めることはできない。
とてもお気に入りです。
崇拝と侮辱、大好きな矛盾だと思います。
続きもお楽しみに。




