核心
「薬袋、もしかしてなにかいい事あった?って聞いてほしそうな声の上がり方だね」
「いや、そんなことないよ。というかそんなにあからさまじゃないだろ」
どうやら僕はよほど家で会話ができたことが嬉しく、家に帰るのを待てずに学校の昼休みに電話をかけてしまったようだった。
「ってことは何かいいことあったんだ」
しまった。罠にハマってしまった。
「いやいや、自分からハマりに言ってるよそれ。これでまた穴があったら入りたいだなんて言われたらどれだけハマりたいんだってツッコミたくなる所だよ」
「やっぱりお前頭いいよな」
「頭がいいのもたしかにあるけれど、薬袋と付き合いが長いからね。それぐらいは察するよ」
なんとも嬉しい言葉だ。恐悦至極だけれど、光栄であり冥利に尽きると言っていいだろう。こんなに聡いなずみと付き合いが長いのだから僕はもしかしたら頭がいいんじゃないか、もしかしたら僕は....
「変な方向に話をねじ曲げないで本題に入ってくれる?私だって意外と忙しいんだよ?」
「...なんだよ。一体この休み時間何をするつもりだったっていうんだよ。」
「そりゃ...読書したり勉強したり....」
「なんだやっぱりやることないんじゃないか」
「あとは、人間をねっとりと観察することかなとかかな」
ねっとりと!?
「死体のね」
死体を!?
それもはや犯罪じゃないか。だいたい高校生でやるレベルかそれ......
「もちろん嘘だけどね。でも、嘘って言うのはあくまで死体を観察するっていうことだけであって、忙しいことは嘘じゃないんだよ?」
「悪いな申し訳ない。実は、昨日であった少女、咲姫さんのことなんだが、家に泊めたところすごく喜んでくれたんだよ。それがとても嬉しくてね」
「おぉそれはよかったね。きっと薬袋なら懐柔できるんじゃないかと思っていたよ。流石女子には目がない男!」
褒められている気がしないんだが。
「でも、最近そっちの方物騒みたいだし薬袋も気をつけるんだよ?特にその少女なんて歳をいくつ取っていたって体は矮小でいたいけなままなんだから労わってあげないと」
「物騒?そんなことあったのか?」
「あぁ、そっか薬袋ってテレビとか本当に情報ないんだったもんね。そっちの方で今、女子の行方不明事件が発生しているらしいよ」
そんなことがあったのか。
しかし、地元の僕が知らないでなずみが知っているとは....やはり何かしらの情報手段は持っていた方が良いものなのだろうか。
「まぁ、誘拐なのか自発的な家出なのかははっきりとわからないみたいだけれどね。それにテレビもほんのちょっとしか報道してなかったし。でも、君の住んでいる場所ってあまり報道されないから少し気になったんだよ。一応名前を明記しているのだけれど、知りたい?」
「あぁ、教えてくれ。もしかしたら通りすがりにでも見つかるかもしれない」
「わかったよじゃあ教えるね、その子の名前は常滑紫空って言う人だよ。」
当たり前なのだけれど、やはり聞いたことの無い名前だった。
「わかった。覚えておくよ」
「うん、そうしておくといいよ。きっと君は常滑さんに会うことになるから」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
「さぁ、なんででしょう?あ、もう時間だから電話切るね。頑張ってよ、次の報告、期待してるから」
そう言って電話を切ったのだった。
...僕はなずみと何度も話しているはずなのに、なずみの本心が未だにつかめないままだった。否、あえて本心を掴ませないようにしているような感じがする。いつかわかる時が来るといいのだが。