会話
僕はなずみとの会話で、彼女が本当に不老な可能性があることを確信することは出来た。人間の進化の過程で不老になった、ありえない話とは言いきれないだろう。そもそも、話す人が少ないこの僕が、他人を疑うなんて言う愚行を犯すべきではなかったのだ。僕なんて言う木偶の坊に話しかけて頂いて、あまつさえ、一緒に居住して頂ける。
そんな条件が揃っているのだ。もうどうにでもなれって話だ。
「おはよう、帯正くん。」
そんな声が聞こえた。そういえば、家に誰かがいるという状況何年ぶりなのだろうか。思い出せないほど、僕はこの家の中で誰かの声を聞いた覚えがなかった。
「おはようございます、咲姫さん。どうでした?寝心地は」
「いや、素晴らしかったよ。久しく安心して眠ることができなかったからね。罵声や怒声が聞こえない場所での睡眠がこれほど快哉だとは知らなかったよ。ありがとう」
やはり、知らない人の家というものは寝心地が悪いものだったのか。そしてこれはあくまでバイアスかもしれないが、春を買う人達というのに性格がいい人はいないだろうから、きっと苦労していたのだろう。助けてよかったと本当に思ってしまう。
「ところで、君はこれより学校に向かうんだろう?」
「そうなりますね。ご飯は冷蔵庫に入れてあるので安心してください。」
「帯正は優しいやつだな。本当に感涙してしまいそうだよ。ところで、敬語をやめてくれないか?」
「どうしてです?一応何年も生きていらっしゃるので、風体は同学年であったとしても、敬いを表した方がいいかと思ったんですが」
「そうだな、その心構えはとてもありがたいよ。でも、私は住まわせて頂いている側なものだから、あまり敬語を使われると申し訳なさでいっぱいになってしまうんだよ。大丈夫、敬語を使わないからと言って不遜な態度だななどと思ったりはしないからさ」
「....実はもう1つ理由がありまして、あまりあって日が浅い人には敬語を使ってしまう、というか」
「じゃあいい機会じゃないか。いつかは、初対面の同学年と一緒に行動しなければ行けなくなるんだ、私を使って今のうちに慣れておくといい」
なぜかは僕にもわからないけれど、敬語を使わないと睥睨され軽蔑されるのではと懸念してしまう節がある。ここまで述懐されると流石の僕も敬語を使わないよう努力をしよう、とは思うけれど、年上というものは敬語を使われることが快感だと思っていたのだけれど、意外とそうじゃないのだろうか。
「わかりまし....わかった。これからは敬語で話さないように気をつけさせて....気をつけます」
「面白いやつだな。ますます気に入ったよ。まぁ徐々に慣れてくれ」
そう笑いながら咲姫さんは語るのだった。
「じゃあ学校頑張るんだぞ。応援している」
「そんな頑張ることじゃない....けどね。適当に生きるだけですから。じゃあ頑張っていくね」
「おう、頑張るんだぞ」
そう言って玄関を出たのだった。