電話
ここで是正しよう。
僕は確かに、学校で誰かと話すようなことは一切ない。でも、それはあくまで学校では誰とも話さないというだけであって、学校外では一人とだけ不定期に話していた。その一人の名前は、春川なずみと言う。なずなとは、中学校では話せる数少ない友達だった。昵懇だった中、中学二年生の秋に転校してしまったのだった。携帯番号を交換していたため未だに会えなくても話せるわけだが、なぜ彼女が転向したのかという理由を僕はまだ知らないのだった。
「こんにちは、こんばんは、もしくはおはよう」
「いや、同じ日本だからこんにちはで充分だよ」
「まぁそうなんだけどね。キャラ付けの一貫としてみてほしいな。自分以外の誰かになりたい時ってあるじゃんロジェ・カイヨワ的に言うと、ミミクリってやつだよ」
理解はできそうにないが、理屈は何となく理解できた。今やる必要があったのかはわからないが。
「まぁ、深く考えたら負けだよ。それより今日はどうして電話をかけてきたの?」
そう、今日僕がなずみに電話をかけたのは不老の少女(風貌だけが少女なので少女と言っていいのかわからないが)、佐藤咲姫の話をしたいと思っていたからであった。
「ふーん。そんな少女がいるんだ。なるほどね。なかなか興味深いね、それ。」
「あれ、懐疑的に思わないんだな。なずみのことだから、面白い冗談を言うねーとか揶揄するんじゃないかって思ってたんだけど」
「いやいや、それはあくまで薬袋がおかしい冗談しか言わないなーって思ってるから言っているだけだよ。今回は冗談じゃないなって思ってるけど。いや、そう思いたいって言うのが本当なのかもね」
どういうことなのだろうか。
「そもそもさ、生物ってそれぞれがどうやってどんな過程を経てその形になったかを知る人っていないじゃない?だから生物の進化の過程として人間が変化して不老になったっていうのは結構有り得なくはない話だったりするんだよ。まぁ、嘘をついているかもしれないからそう思いたいって言うだけなんだけれどね」
「なるほどな。確かに人間がどうやって猿から変化したのかって言うのはいまいちわかってないもんな。そう考えると不老の少女が産まれても確かにおかしくないのか...」
「というか、薬袋がその少女を家に泊めたのって自分のつまらない日常を変えてくれるんじゃないかっていう浅ましい 期待があるからであって、別に不老じゃなくてもよかったんでしょ?」
確かに、その通りだった。
不老でもなんでもあの美しい少女が泊まりたいと言うのだから泊まらせようと思った、ただそれだけだった。不老に関しては実を言うとそこまで気にとめておらず、ただこれで人生が変わらないだろうか、幸せになれないだろうかと本当に浅ましい期待でいっぱいだった。
「でも、いいと思うけどね。薬袋と少女で利害が一致しているわけだし。それに、不老な美しい少女だよ?いいなー羨ましいよ。もし薬袋の家が近かったら家に訪れてその少女を誘って拐かすんだけど」
「いやそれはやめてくれ。だいたい、少女といっても風貌が少女なだけであって、僕達の年をを一回りも二回りも上回ってるんだぞ??」
「あーそうだったね。まぁでもいいじゃん体つきは私たちと同じみたいだし。あと、私も不老になりたいからさ、その少女の体を四方八方、矯めつ眇めつ、三百六十度眺めて色々と実験もしてみたいし攫いたいなー」
お前結構物騒だなおい。
でもきっとこんな思考の人と咲姫さんは何人にもあったのだろう。きっと大変だったのだろう。それはもう何度も死のうと思うほどに。
「もちろん冗談だけどね。攫うとしたら君の方を攫うよ」
「いや、それもやめてくれ」
といいつつ少し期待をしていたりする。
「まぁ、頑張ってよ。私は薬袋と少女が上手くいくことを願ってるから。また何かあったら相談してね。面白い話期待してるよ」
「ありがとう。多分すぐに相談することになると思うよ。まぁもちろん、面白い話かどうかは保証しないがな。」
「大丈夫君の話は全部面白いよ。面白くなくても、それが面白かったりするわけだし」
それ、褒めてないよな、というかからかってるよな???
そう口を挟む前になずみは電話を切ったのだった。