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僕の家は二階建ての一軒家だった。学校でも、マンションやアパートに住んでいるという人間が多い中、母親が異様に仕事を頑張ってくれたおかげで、一軒家に住むことが出来たのだった。そこはとても感謝をしている。とはいっても、最近は母親と話していない。一応、母親の携帯番号は知っているが、話す事柄がない上に、妙な気まずさがあるため話さないのだ。つまり、僕の家庭環境は良いと呼べるものではなかった。もちろん、悪いと呼べるものでもないけれど。

「なるほど、ここが君の家か。にしても、私たちは裕福ですよと言わんばかりだな。裕福の権化のような家だよ全く」

 そこまで強調しているように見えるのだろうか...割と普通だと思うのだが。

「ん?表札の名前、これはなんて読むんだ?」

「あぁ、それは薬袋って書いてみない、って読むんですよ。珍しいから読めない人多くて...ってそういえば自己紹介してないままでしたね。僕の名前は薬袋 帯正(みないおびただ)って言うんです。あなたの名前はなんて言うんですか?」

「私の名前は...佐藤咲姫(さとうさき)。それにしても薬袋でみない、なんてなかなかな珍名だねぇ。私なんて佐藤っていう平々凡々な名前だよ。羨ましいなー」

「いやいや、佐藤って苗字には憧れありますよ。平凡だと日々を営むのが容易ですからね。こっちなんて名前だけ変に有名になっちゃいますから....」

「ふーん。そうなんだ、色々大変なんだね。じゃあ君を呼ぶ時は薬袋じゃなくて、帯正くんって呼ぶことにするよ。」

「そうしてくれるとありがたいですね。じゃあ僕は...咲姫さんとお呼びすればいいですか?」

「うん、それでお願いするよ。」

 佐藤咲姫、か。よくある名前だが、多分偽名だということを僕は簡単に想像することが出来た。なぜなら、何年も前から生きていたはずの人が、こんなコンテンポラリーな名前を持っているはずがないからだ。だからきっと、売春の時に騙る名前が佐藤咲姫なのだろう。いや、もしかすると本当は女子高生で、本当に佐藤咲姫という名前なのかもしれないが、その考えはまた後にすることにしよう。

「いやー中もなかなかに広いね。流石、母親が儲かっているだけあるよ。私もこんな家に住みたかったな」

「皮肉はやめてくださいよ....とりあえず、一階に空いている部屋があるので、そこを住む場所として使ってください」

「お気遣いありがとう帯正くん。君と出会えてよかったよ。本当、試しに車に轢かれようとしてみるもんだね」

試さないでほしいのだが。

「まぁ、それはそれとして、夜ご飯を作ってくれないだろうか。別に私のことを乞食だな、と嫌そうな目で睥睨してくれて構わないんだけれど、お腹が減っていてね。」

「いや、乞食だなとか思ってませんよ。どれだけ不安症なんですか。まぁそうですね、少し早いですけど夜ご飯にしましょう。テーブルに料理を運ぶので、椅子にかけて待っていて下さい」

「ありがとう。君は優しいねぇ。売春していると、何人かは睨んで来るから少し怖くてね。でも君なら信頼できそうだよ。」

 そういうことだったか。それは少し傷を抉ってしまったかもしれない。売春の雰囲気が如何程なのか、僕には皆目検討が付かないけれど、きっと大変だったのだろう。それを三桁年ほど続けていたかもしれないのだからよほど辛かったはずだ。不老なんて、いい事づくめだろうと愚直に考えてしまったけれど、どうやら経験値とともに猜疑心も育ててしまうようだった。

「それにしても、君の家は物が少ないね。テレビもないし、娯楽もほぼないし、ミニマリストって感じがするよ」

「母親はめったに帰ってきませんし、僕はなにかに没頭している訳ではないので、ものが増える事がないんですよ」

「羨ましい限りだな。私の家なんて色々なもので埋め尽くされているものだよ。いや、昔の話だけれどね」

  昔の話か。一体何年前なのだろうか。想像するだけで怖くなりそうだ。そういえば、咲姫さんの親は一体どうなったのだろうか。もう既に死んでいるのだろうか。だが、不老の子を産んでいおいて、親が普通に死ぬなんてことが有り得るのか...?どうやら、まだ咲姫さんには深くお話を聞く必要があるらしい。

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