始まり2
「不老?それってまさか歳を取らないってことですか?」
「君の思っている通りだよ。私はさ、何年も生きてるんだよ。生きすぎて何年生きたか忘れてしまっているくらいにね。だから人生に飽きたし飽いたから自殺しようかなーってそんな程度。思いつめてーとかそんな理由じゃないよ。至極単純明快な理由だよ」
まず、不老という事実に頭がついていけない、と普通は思うだろう。だが、僕は違った。正直、どうでもいいのだ。この女子高生が別に嘘をついていたところで、僕にはなんの害もない。寧ろ、他人と話せるという得でしかないのだ。だからとりあえず、ここは女子高生の話に乗ることにした。
「不老って中途半端ですね、普通こういうのって言ったら不老不死って来るものだと思ってましたよ。いや、三次元に二次元的な発想を持ち出して考えようだなんて甚だ間違っているんですけれど。」
「そうだね。確かに中途半端だよ。でも、どうやら今世は死ねるみたいなんだよね。それに気づいたのは一回危篤状態になってね、その時に死の危険を感じたものだからさ。あぁ、私が持っているのは不老だけなんだーって思ったよ。」
なるほど、何年も生きていればこの年でも危篤状態に陥ってしまうものなのか。まったく、明日は我が身だな。
「ところで、不老って言葉に君は驚かないんだね。私が言っていることが虚言だなって訝しまないのかい?」
「いやいや、そりゃ驚いてますよ。でも、僕はもしそんなことがあったら信じたいって思うんです。僕も、別に人生が楽しいと思っているわけじゃありません。自分に自信がある訳でもないですし、誰かになにかをしてもらわないと行けないんですよ。だから、あなたは僕にとって都合のいい存在なんです。だから、不老を怪しむなんてことはありませんよ。むしろあって欲しいです。」
「そう考えるんだね。君って面白い人間だね。気に入ったよ。そんな君に頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
なんだろうか。こんなに素晴らしい人だったら、僕はなんでも出来る気がする。犯罪すら犯せるような、そんな気がしてしまう。
「君に頼みたいことは、君の家に私を泊めさせて欲しいんだ。」
...泊まらせる??僕の家に????
「まぁ、動揺してしまうのは分かるけれど、とりあえず話をするね。といっても、あまりの動揺に口を差し挟むことすら出来ないだろうから、私が一方的に話させてもらうけれど、家に泊まらせて欲しいと懇願する理由を語るには、まず不老の私がどうやって今の今まで生きてきたか、というお話からさせてもらう必要があるんだよ。」
そういえば、確かにどうやって生きてきたのだろう。きっと高校は卒業しているということになるのだろうから、何かしら働いていたのだと思うけれど。
「不老だから、下手にちゃんとした仕事に働けないんだよ。役所だととっくに私は死んでいることになっているからさ、働く時って私が何者かを証明するものが必要だけれど、私はそれを提示することが出来ないんだよね。でも、生きるためにはお金を稼がなきゃ行けない。そして、手っ取り早くお金を稼ぐ方法を考えたんだよ、その結果辿り着いた答えが赤線だった。」
「赤線ってなんですか?」
「あ、そっかごめんね。君は20世紀生まれだから知らないんだね、赤線っていうのは昔流行った、半ば合法で売春が行われていた場所のことだよ」
ということはまさか...売春を....
「そう。私は体を売ることで糊口を凌いできたんだよ。都合がいいことに、私の体は老化しないからさ。いつでも若い状態を保ったままっていう売春にはもってこいな存在なんだよね。それに、売春ってするのに自分の証明とかしなくていいからさ。ちなみに、セーラー服を来ているのは、春を買う人達が喜ぶから来ているに過ぎないよ。」
そんな深い理由が....
「でも、それってすごく辛くないですか?」
「まぁね。でもこれも生きるためさ。といっても、生きる意味の無い人生だけどね。無駄に無駄を重ねた人生を無駄に使っているだけ。死ぬ勇気さえあればーって思う。まぁ君が止めちゃったけどね。」
それは申し訳ないことを....
「まぁそれはいいんだよ別に、それに、申し訳ないなって思うなら贖罪として家に泊めてって話だよ。もう体を売りたくはないしね。君なら信用できるよ。うん、そういう目をしてる。それに、君も人生に疲れてそうだからもし君が私を泊めてくれた暁には、君を毎日癒してあげるよ。悪い条件じゃないと思うけど?」
「確かにそうですね。仮に女子高生だったとしても、望んで一緒に住みたいって言ってきたっていえば済む話ですし、もし死にたい時に邪魔したって言うなら贖わさせてくださいよ。」
「ちゃんと私が女子高生かもしれないって可能性は危惧してるんだね。流石だよ。ところで、君の家に泊まるって言うことはもちろん親にバレないようにしなきゃ行けないけれど、その辺は大丈夫なのかい?」
「あぁ、その点なら大丈夫ですよ」
親は当分帰ってきませんから。
「親が帰ってこないということは、君の家族は片親しかいない、ということか?」
「ご明察です。僕の親は昔に離婚して、僕を扶養してくれているの母親だけになりました。そして、母親は天職と言えるほど、自分に力が活かせる職に就いたので、繁忙なんですよ。国内にはいるんですけど全国各地を飛びまわっているので、帰ってこないんですよ」
「なるほどな、それは好都合だ。説明しなきゃいけないって気構えていたけれど、その段階がなくていいだなんてね。これで楽に過ごすことができるよ。
ところで、関係はない話だけれど、君はテレビやニュースを見るかい?」
「いえ、ほとんど見ませんよ?ネットは使いますけど、ニュースを見ようと思ってみることは無いです。」
「なるほどな、それも好都合だ」
どういうことですか、と聞こうとしたが、とりあえず立ち話もなんなので、家に向かうことにした。