家庭環境
次に目が覚めた時、得たものと失ったものがあった。
得たものは手紙。そして失ったものは、咲姫さんだった。咲姫さんは何故か僕の家からいなくなってしまったのだ。
僕は直ぐに手紙を読んだ。手紙の内容はこうだ。
「今までありがとうね帯正くん。私は帯正くんが邪な気持ちをもって私を家に泊めてくれたのだろう、だなんて思っていたのだけれど、本当に何もしてこないだなんて驚いたよ。でも嬉しかったな。じゃあ私は帰ることにするよ。あ、そうそう今まで嘘をついていてごめんね。
私は不老じゃないんだ。じゃあね」
なぜ僕に一言も告げずに家を出ていってしまったんだ、と思ったがそれ以上に、不老じゃないという文言も気になった。不老じゃない?一体どういうことだ?
咲姫さんが語っていた話は妙に信頼感があったのだが、あれが嘘だったのか?
まるで本当に不老で、何年も生きていたような、そんな貫禄があったのだが。
....なずみに聞いてみるか。
僕には到底整理できる気がしない。
「やぁやぁ、待っていたよ。薬袋が今電話をかけてくれたということは何か進展があった、ということだね」
「あぁ、その通りだよ。実は咲姫さんが家から居なくなってたんだ」
「....もしかしてだけど、常滑さんの話した?」
「したけど、それがどうかしたのか?」
「ごめん、これは私が軽率だったよ」
どういうことだ?常滑って人と咲姫さんにはなんの繋がりもないはずだが。
「落ち着いて聞いてね、常滑さんと咲姫って人は同一人物なんだよ」
何を急に言い出すかと思えば、そんな突拍子もないことをなずみは言うのだった。
「いやいや、そんなわけないだろ。第一、咲姫さんは家出少女じゃなくて不老だぞ?もし咲姫さんが家出少女だったとして、なんで不老だなんて嘘をついたんだよ」
「そんなの簡単だよ、不老だって嘯くことで君が家に泊まらせるというハードルを下げたんだよ。普通の少女だったら犯罪になってしまうから泊めずらいけど、不老の少女だって言えば、犯罪に問われないから泊めやすくなるでしょ?」
それは確かに。
「じゃあ、まさか本当に?」
「そうだよ、本当に咲姫って人は常滑紫空って人に間違いないね」
もしそうだとしたら辻褄が合う。
家に出てしまったのも、僕が昨日家に帰った方がいいと唆したからで、テレビやネットを使っているかと聞いたのは、自分が家出少女だと知らない方が好都合だったからだ。
「でも、咲姫さんの言うことにはかなり説得力があったぞ?本当に長い人生を生きてきてかのような、そんな感じがあった」
「薬袋はさ、家出する理由が些細な家庭問題だけだと思ってない?」
「それ以外に何があるんだよ」
「やっぱりね。だからそんな軽率な事言って常滑さんはいなくなちゃったんだよ。でも常滑さんが家出した理由は些細なことじゃないはずだよ、だってその理由は」
ネグレクトだし。