小話
良い人生だった。
そう言って頭を撫でてくれたおじいさんは、その後すぐに死んでしまった。
おじいさんとはよく話したりはしなかった。
特に懐いていたわけでもなく。
特段、嫌っていたわけでもない。
好きか嫌いか。YESかNOか。
聞かれれば好きと答えるくらいだ。
葬儀は直ぐに行われた。
黒い服を着せられ。
小部屋に連れていかれ、待っているようにと言われ待ち続けた。
幼かった私には全ての事がふわふわとした現実でしかなかった。
おじいさんが死んでしまったことも。
両親がいつもとは違う表情をして、涙を流していたことも。
葬儀が始まり、集まった親戚の人達と共に花を添える。
おじいさんは棺の中で眠っていて。
死んでいるようには見えなかった。
棺を見送り、
竈のようなところでおじいさんを焼いていた。
私は何をしているのか母に尋ねた。
母は涙を堪えているだけで、何もいわなかった。
私は何だか怖くなり母に顔をむけ、おじいさんから目をそらした。
すると母は、
「見ておきなさい。
見続けるのよ。見届けるの。」
といって私の顔をおじいさんに向けさせる。
体が動かなくなった。
目を瞑ることも。
私には、あの時間が永遠に思えた。
遺影に写ったおじいさんは笑っていて。
私はーーー
Prrr…と、アラームが鳴る。
朝、起きるために設定しておいたものだ。
パチりと目が覚めた。
そこは見慣れたベッドの上で。
私はそこから出ると、リビングへ向かった。
あともう少しで両親が起きてくる。
朝必ずといっていいほど、暖かいコーヒーを飲む両親のためにお湯を沸かし、学校がある自分と妹の朝ご飯を作る。
床は冷えきっていて冷たいが、料理をすると手だけは暖かくなるので台所から離れない。
両親が起きてくると頭をわしゃわしゃと撫でられる。
次に妹が起きると、朝ごはんを準備している私をみると絞ったような声で、
「ぉはよ…」
と言ってくる。
私はおはようと返すと妹と朝ごはんを食べ、学校の支度をして学校へ行く。
いつものように
「なんて、退屈な人生なのかしら」
そういって、悪魔が笑った。
*****
いつもどおりだった。
いつもどおり学校へ行き。
友達と話したり授業を受けたり。
昼ごはんを食べながら幼い時の事を思い出したり。
普通だった。
なのに。
何故。
なぜこんなにもやるせない。
そういって焦燥感に駈られる私は。
心のどこかで、あのおじいさんの事を思い出していた。