表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔法もスキルも使えない?大丈夫、それがチートです。

作者: 古澤深尋

何はなくとも


 魔王城。

 死の大陸にあり難攻不落を誇る魔族の拠点。

 いつもなら恐ろしい怪物が周囲を睥睨し、兵士達は恐れる者もないかのように傲慢な様子を見せているが、その日は違った。


「なあ、聞いたか?」

「何をだ?」

「今迫っている奴、勇者じゃないんだと」

「…マジ?」

「ああ、闇蜂の連中が命がけで持ち帰った情報だ」


 黒い鎧のデュラハンがため息をつく。

 彼女の子飼いの諜報部隊、闇蜂。

 人の国に入り込み、情報収集から暗殺までこなせない裏仕事は無かった。

 魔王陛下の覚えめでたく、デュラハンとその部下たちが魔王軍で出世し、一翼を担うようになれたのも彼らのおかげだった。

 だが、闇蜂は壊滅状態だ。

 

「我々も覚悟を決めねばならない」

「そんなに強いのか?」

「ああ。『無能の最強』、格闘家のリタ。我々魔王軍の天敵だ」


 話を聞いていたダークオーガは身震いした。

 果たしてそれは武者震いなのか、それとも恐怖だったのか、本人にも分からなかった。


※※※※


 夕刻。

 見張りの声でリタの来襲が分かった。


「来ました!勇者殺しのリタです!」


 実際には殺してはいない。

 魔法もスキルも持っていないリタをバカにした勇者が、リタに試合を申し込み、返り討ちにあって五分の四殺しにされただけだ。

 ほぼ死んでいるのではというツッコミは、リタは華麗にスルーしている。

 勇者を袋叩きにしてしまったため、国王に泣いて頼まれた魔王討伐。


「さ、魔王。覚悟しな。あたしはあたしより強い奴に会いに来たんだ!」


 魔王城を含む一帯の『世界』が変化した。

 その瞬間。

 魔王城が粉々に砕け散り、魔王軍は全滅した。


「ちょっと待てやあああああ!」


 リタの絶叫が魔王軍の消えた荒野に虚しく響き渡った。


※※※※


 リタがこの世界に生まれる前。

 彼女はこの世界の神に会ったことがある。

 ただ、それは必ずしも厳かなものではなかった。


『ぶべら!へぐほ!ぎゃぶひ!?』

「神が勝手に人を地球から拉致ってんじゃねえ!」

『ご、ごめんッべっへえ!』


 神らしき老人と、老人をフルボッコにしている女性。

 彼女の背後には、殴られている老人よりも立派な男女の神がいた。

 ただ、二柱とも毛虫でも見るかのような目で老人を見ている。


『百合や、そろそろ良かろう』

「そうね…ん?」


 百合と呼ばれた女性がリタに気付いた。

 神をド突き倒す百合に見とれていたリタは、彼女みたいになりたいと強く願った。


『ほう、見所のある魂じゃ。わしらから贈り物をしようかの』


 溢れる力。

 鍛錬の方法。

 そして、確固たる『世界』

 

『よしよし、【漢も漢女も】《肉体言語》【拳で語れ】確立したの。これであの世界にもわしの弟子が…』


 男の神が女神に張り倒された。


『またあんたは!』

「そうだぞ爺様!婦女子に何というものを押し付ける!」


 今度はその神がフルボッコにされていた。


(ププッ)


 思わず吹き出し、そこで意識は暗転した。


※※※※


 で、現在。

 彼女みたいになりたいと願ったリタは、まさしく百合みたいになってしまった。

 魔力がなく、魔法もスキルも持っていない。

 ひたすら鍛えて格闘家として名を成した。

 どんな武人も魔導師も、リタには手も足も出なかった。


 【漢も漢女も】《肉体言語》【拳で語れ】

 この『世界』においては力と鍛錬がすべてである。

 いかなる魔法もスキルも加護も無効化され、魔法生物は即崩壊し活動を停止する。

 魔道具は破損し修復不能に。

 武器類は暗器に至るまで使用不能。

 純粋な力と技だけが闘う術である。


 魔法もスキルもないために、世間からはバカにされ続けた。

 だが、功夫を積み重ね、立ち塞がる者達を正面から叩き伏せ、闇討ちを悉く返り討ちにし、気が付くと誰も敵うものが居なくなっていた。

 それはそうだろう。

 この世界の魔法もスキルも、彼女の世界を越えられないのだ。

 大陸一つ消し飛ばす禁呪も、世界の境界に至った瞬間消滅。

 神も悪魔も両断するスキルも以下略。

 魔法とスキルに頼り切った連中が勝てるはずがなかった。


 攻略不可能と言われていたアンデッドダンジョン『不死王の大墳墓』がリタ一人に為す術もなく攻略されたのも当然だ。

 アンデッドが彼女の世界に入り込み、端から粉砕されて魔素になる。

 スケルトンもゾンビもゴーストも、みな等しく塵に還る。

 武器だけ飛ばしても、世界に触れた瞬間その場に落ちる。

 呪いの武器も一瞬で破損、呪いは消え去りゴミが残る。

 毒の類も同じである。


 魔王すら一合もすることなく倒してしまったリタ。

 

「あーあ、あたしより強い男ってどこにいるんだろ?」


 リタの望みは、自分に勝てる男性を見つけて伴侶になること。

 残念ながら、彼女の春はまさしく神のみぞ知る。

 

 


  

 

最強伝説

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ