マフィアたち
理容師は喫茶店のドアをくぐり、息子の姿を発見した。相変わらず仕事をせず、店主と話ばかりしている。
「ドッド」
父親は、語気を強めて息子の名前を呼んだ。ドッドは、能天気な顔で振り向いた。
「また店の中で死体が出たの?」
「なぜ分かった」
「父さんが俺に話しかけてくるのって、その時だけだから」
理容師は胸中に、乾いた風が吹くのを感じた。大人になっても親の家から離れない、と冷たく扱ったことを後悔したが、謝るのもバツが悪く、話を続けた。
「“ビッグフット”が殺された。よりによって私の店で」
「そういうことは警察に話してよ」
「また私の店で殺しがあったとバレると、“人食い理容室”から“殺人理容室”にあだ名が変わりかねん」
どっちも変わらない。ドッドとジュリアは思ったが、今更理容師の几帳面さをあげつらってもしょうがない。
「警察の検分前に現場をいじるのは犯罪だよ」
「なに、死体の位置を“店の中”から“店の前”に変えるだけだ。瀕死のマフィアのボスが最後に向かったのは、頼れる元幹部の店だった、という筋書きでな」
親父もジョークが上手くなったな。ドッドは内心で苦笑した。店内の痕跡を抹消し、死体を移動させるのは、彼にとって難しいことではないが、警察は確実に疑う。
検分を行えば、死体がいきなり理容室の前にワープしたように見えるだろう。
「素直に警察に話した方が良いわよ。進んで悪いことないわ。
あなたの店に死体が増えたところで、みんな慣れたようなものよ」
「客足が遠のくかもしれないだろう」
「事件が起こる前から大して繁盛してなかったでしょ」
辛辣なジュリアの言葉に、理容師は黙り込んでしまった。その隙にドッドは喫茶店の受話器に手を伸ばしたが、配線が切断されていることに気づいた。
「これが本当のワイヤレス…」
「え? 何か…ってウチの電話が!」
ジュリアは悲鳴を上げた。ドッドは間髪入れずに父親を殴った。
「…父親を突然殴るなんて、ひどいじゃないか」
「家族の俺はともかく、ジュリアに迷惑かけるな」
「私だって自分の店を守るために必死なんだ」
息子と父が睨みあっていると、喫茶店のドアが乱暴に開かれた。くすんだ金髪の、小柄だが恐ろしい顔つきの若者が立っていた。
「理容師、店を放って何してる?」
彼はコルテスの忠実な部下だった。
「あんたんとこのボスが貸し切ってる。正直迷惑だ」
相手が事情を知っているのを分かった上で、理容師は答えた。マフィアは少し黙った後、尋ねた。
「アンタがやったのか?」
「私なら少なくとも店の外でやるよ、リヴォルバー」
名前を呼ばれたマフィアは薄く微笑んだ。
「だろうな…犯人の顔を見たか?」
「一瞬のことだったからな、顔は見ていない」
マフィアの男は携帯を取り出し、仲間に連絡した。外では、他のマフィア達が血眼になって犯人を探している。