『ソリッド・グリーン‐空と大地‐』
どんなに汚そうとしても、脳内の妄想の中で、汚そうとしても、自分は確固として汚れ泣きもの、純潔、処女、犯されないものになりたい、と願い続けた。
それ故に、絶対的最強を望み、それ故に、他者からの認識を改竄する力を得た。
最強の能力者を目指そうと思ったのは、後付けでしかないのかもしれない。
自らが汚れたくない。
まずは、この世界から、男性から、女性から、性欲から。
彼女は、性的なものを強く嫌悪していた。
幼い頃から漠然と、母親が死んで、心のバランスを崩して、殴ってくる父親が気に入らなかったからなのか。
あるいは、傭兵時代において、性暴力を肯定する兵隊達に強い嫌悪感を抱いたからなのか。
性行為は汚らしい。
他人が自分を見る眼は汚らわしい。それは、自分と同じような姿を見ているようでいて、まるで別の自分を見ているかのようだ。同じような姿の同一人物が、他人の眼から見て、映っているのだろう。分かり合えない。
性別なんていらない。
自分しか愛せない。
愛せる自分になる為に、自分自身を高めるしかない。決して、自己嫌悪などという負の感情に飲み込まれてはいけない。自分を律する意志を強く持たねばならない。
そうでなければ、この暴力的な世界において、全て奪われてゆく。……そんな気がした。だから、強くなるしかなかった。自らの手で運命を切り開いていくしかなかったし、欲しいものは手に入れていくしかなかった。
この萌黄色の髪は、枯れ草のような緑の髪は、何故、靡くのだろう?
自分自身の存在を考える時、自分が何者なのか分からなくなる。紅い瞳に、人形のような顔。少女のような体躯。
今は生殖器官も性欲も存在しない。
愛する、という感情が分からない。
全てが汚らわしい。
全てが醜悪だ。
この感情は、きっと湧き出して止まらず、終わる事は無いのだろう。永遠に閉ざされた時間の中に生きているかのようだ。
この世界や他人とは、永遠に分かり合えないのだろう。
一人の時間が好きだった。誰とも共有していない時間、自分以外の誰もいない時間。誰からの評価もなく、誰をも評価しない。ただ、自然の中を散策していたり、一人、図書館の中に篭もっていたりする事。それが紛れもない幸せだった。
孤独の時間は愛しい。
おそらく、掛け替えがない程に大切なものなのだ。
この世界に生まれ落ちて以来、自分は何処か幸せではなかった。
………………。
レイア……。
それが、自分の名前だ。
自分は他の誰でもない、自分なのだ。それだけが、揺るぎ無い確かなものだ。