第13話
2人は支払いを済ませてエレベーターに乗る。他には誰もいない。ケンジはケイコの手にそっと触れる。そして優しく握りしめる。楽しく会話が弾んだカウンターとは対照的に、エレベーター内は沈黙と緊張感に包まれる。エレベーターを降りた後も、2人の手は離れない。
『タクシーで送っていきましょうか?』
ケンジが沈黙を破る。
『まだ10時過ぎたばかりなので、電車で大丈夫ですよ。』
お互いの手から伝わる温かさい人柄を感じながら、2人は駅へと歩いてゆく。
『この時間がずっと続けばいいのに』
無意識にケンジが言葉を発する。ケイコは何も言わない。心の中で頷くだけ。ただそれだけで充分に伝わる。駅のホームにたどり着く。
『また、ケイコさんと2人で逢いたい。』
今までと異なる口調。
『私も、また逢いたいな。』
今はもう止まらない。無情にもケイコの乗る電車が到着する。
『今日はありがとう。また連絡するね。』
ケンジはケイコの髪に触れ、耳元でささやいた。こうして、2人はまた日常という世界へ舞い戻っていくのだった。
ケイコはいつもと変わらない様子で、家族と子供たちが待つ家へと帰り、いつものとおり眠りにつく。何も変わらない日常。
ただいつもと違うのは、ケイコの心の中のロウソクに、ケイコの胸の中のChristmasキャンドルに、優しく温かい火が灯ったことだった。
決して許されるものでもなく、決して認められるものでもない、ただ1つの純粋の恋。




