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あの子に連れられ来た世界  作者: けもふ
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1.山の中

私は今、とある県の山に来ている。

ふわりと香った優しい匂いに誘われて入った山の小道を進んでいるのだが、

澄んだ空、舞い散る満開の桜、地面に咲くきれいで小さい可愛い花。

まるで現実じゃないような風景に、

心ここに非ずといった状態で見惚れているところだ。

途中で買ったみたらし団子を食べながら歩く幻想的な山道は、

すさんでいた私の心をいやしてくれる気がした。


近くにあった手ごろな岩に腰を下ろし、じっくりと周りの風景を眺める。

あの子にも見せてあげたい。そう思ったとたん、私の頬を涙が流れた。

ぽたぽた泣きながら、眺める風景は、にじんでいるのに美しい。


そのままぼんやりあたりを眺めていたら、ふと、視界の端に何かが動いた。

山道を歩いて2時間ほど。人も動物も見かけなかったため、

不思議に思っていたがやはり動物くらいはいるようだ。

何の動物かと涙をぬぐってみたそこには、猫がいた。


体のほとんどが白い。だけど、首と足にだけ特徴的な黒い柄が入っている。

しっぽは細めで長く、まっすぐ。

鼻はきれいなピンクで、すらりとした体躯。

整った顔立ちで、目は金に緑を少し加えたような色。

そんな猫が、「うににゃにゃぁぁぁん」と鳴いた。


あの子だ。

間違いない。

こんな珍しい柄をして、変わった鳴き声の美しい猫は、あの子しかいない。

目が、耳が、心が、この猫はあの子だと伝えてくる。


「は・・・は、ぐろ・・・?ハグロ・・・だよね・・・?


あの子は答えない。あの子は、身をひるがえして走りだした。


「待って、お願い、お願いだから・・・待って!!」


必死で追いかける。

運動が嫌いで引きこもっていた私の足で、狩りの名手であったあの子の足に追いつけるはずがない。だけど、そんなことも気づかず、猛然と追いかけた。

森の中、視界は最悪。猫など、簡単に見失ってしまうはず。

だけど、あの子は逃げるのに、見つけやすいところでとどまる。追いつけそうになったらまた逃げる。まるでどこかに案内するように、あの子は走る。

根っこや石につまずいて転んだ。木の枝で肌を切った。汚れた、血が出た、濡れた。それでも、気にせずに追いかけた。


岩の上、ハグロが座っている。

あと少し、手をのばせば、もう少し近づけば、届く。あと、少し。

何故か、ハグロは逃げない。そう感じた。



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