鷹と鼬と二匹の仔羊は、情報の輪を広げる
五時間目は流れるように終わった。尤も、将治は授業自体に関しては上の空で、気が付いたら終わっていたという状況だった。
将治は授業終了後直ぐに、由樹の席へ向かった。後ろには朝山もいる。米川も直ぐに駆け付けて来た。その様子を見るとやはり、先程の仮定は正しかったという事が窺える。
「――で、どうだった?」将治は訊いた。「やっぱり、全員……」
朝山が唾を飲み込むのが分かった。『やっぱり』と言う将治の言葉から、将治の結果が自分と同じだった事を悟ったのだろう。他の二人に関しても同様だった。
「……うん」
朝山が言った。覚悟したような、観念したような口調だった。
「そうか……二人も?」
二人は無言で頷いた。戦慄して、言葉を発する事さえも億劫なのだろう。その気持ちは、将治にも痛いほど分かった。四人の間には、緊張感が満ちていた。
「…これからどうする?」
そう訊いたのは、由樹だった。沈黙に耐えきれなくなったような様子だ。視線が泳いでいる。
「やっぱり、直ぐに伝えるべきかな」
朝山が言った。米川は、昼休みと同じように何も言わない。
「ああ……俺、さっき考えてみたんだけどやっぱり……伝えるべきだと思う」先程の考えだった。「みんなを信頼してみよう」
「じゃ、何時伝える?」
「仕事は早い方が良い。今日中に伝えよう。担当は……昼休みと同じで良いか。状況を全員に伝えて、取り敢えず明日、その正八面体を持ってきてもらう事にしよう」
三人こくりと頷いた。
下校時刻。
将治はいつものように由樹と一緒に帰ることにした。こんなことで日常を変えてもしょうがない。今日は米川も一緒だ。米川と一緒に帰ると、いつも何かが起こる――先日も傘を真っ二つに折られたばかりだ――ので、普段はあまり一緒に帰らなかったが、今日ばかりは別だ。
三人は終始無言だった。やはり、正八面体の驚愕が未だ抜けないのだろう。何しろ、クラスメイト全員に同じものが差出人不明で届いていたのだ。驚きたくもなる。
どうやら二人は、無事全員に連絡をしてくれたらしい。あとは朝山だが……まああいつは、こんなところでヘマを打つような奴じゃあない。そう信じよう。
将治がその後独自に調査した結果、正八面体が届けられているのは二年二組だけという事が分かった。尤も、一年生と三年生には確認を取っていないが。しかし恐らく、二―二だけだろう。
その事に将治は、安心と不安を同時に覚えていた。よく分からない被害は俺達だけで済みそうだ、という安心と、何故俺達だけが、という不安だった。
米川と別れ、由樹と別れ、自分独りの帰路についた。
これからどうなるのだろうか――言いようのない不安が、将治の胸を占拠していた。まだ何が起こった訳でもない、何が起こると決まった訳でもない。それなのに、将治は強い不安を胸に抱えていた。
明日(七月二十一日)は休みます。ごめんなさい。