楔は憎しみを糧にして
体育の授業が嫌いだった。
あの恐ろしい理不尽なバトルから、一年と二か月が経った。今日は九月十六日。火曜日である。
将治はあの後病院に担ぎ込まれ、大手術によって何とか一命を取り留めた。しかし胸の傷跡は残り、未だに将治を苦しめている。
将治は新大西中学校から、隣の区にある鳴海第六中学校に転校した。将治は現在三年四組。クラスメイトとも上手くやっていけている。
体育の授業が嫌いだった。
通常の体育はいい。しかし水泳となると、どうしても上半身裸にならざるを得ない。そうすると胸の傷跡が見られる。毎回毎回『どうしたんだそれ』だの、『何、事故ったの?』だのと訊かれるのだ。
そしてその度、あの戦いを思い出してしまう。
だから体育は嫌いなのだ。水泳だけはできる将治が、それが最も嫌いだと言うのは皮肉な話である。
今日も水泳の授業がある。またちらちらと傷跡を盗み見られるのだろう。そう思うと、クラスメイトにさえ憎しみが湧いてきた。
《憎い……》
どこからか声が聞こえてきた。咄嗟に将治は辺りを窺うが、声を発したと思われる人物はいない。第一ここは家の中である。
《憎い憎い……憎い》
その声は頭に反響してきた。いつぞやの男の声のようである。
《憎い……ニクイ》
その時、将治の目の前に透明な粒子が集結してきた。それはやがて正八面体の形を成してくる。中央にはぽっかりと、球体が入る穴が開いていた。
「これは……」
中心に黒い液体が注ぎ込まれる。どこから注がれているのかは分からないが、徐々に水位を増していた。
そして、ヴァンが完成した。
《その黒い液体はお前の憎しみ……。お前の憎しみが、新たなヴァンを構築した》
そんな、馬鹿な――将治は呆然とした。
《そして、ヴァンは今、お前のクラスメイトに届けられた。ゲームは、再び始まる……》
徐々に将治の息が荒くなっていく。しまいには脱力して膝を突いた。
《忘れるな。ゲームに伴うのは、常に憎しみ。お前の憎しみが、新たなゲームを始めたのだ……!》
声は、それっきり途絶えた。
「……俺は…………」
将治は途切れ途切れに呟く。
「――俺は一体、どうすればよかったんだよ……!」
しかしその呟きは誰にも聞かれることなく、白い壁に吸い込まれていった。
――to be continued….
とらべるぼーる完結。
物語は続編へと続く――。
多分。




