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とらべるぼーる  作者: 原雄一
第十一章 終幕《おわ》る
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鷹と鼬は、腹を括る

 舞台は男の言った通り新大西中だった。昼休みなので、廊下は活気に溢れている。馬鹿騒ぎする男子。廊下でガールズトークに花を咲かせる女子。クラス一の力持ちにアームレスリングを強要される一年生。

 つい先日まで、将治や由樹もあの中にいたのだ。そう思うと哀しくなる。クラスで馬鹿騒ぎして、走り回って、みんなで先生に怒られて……回想し始めれば、きりがない。


《ほら、早く戦え。あと十九分だぞ》


 男の声が頭の中に響いて来る。どうやら将治たちの姿は、他の生徒には見えていないようである。それどころか、廊下を歩く生徒たちをすり抜けてしまった。見えない触れない聞こえない。二人が戦っても、一般生徒たちに被害が出る事はなさそうだ。

 いや、それよりも、将治は由樹と戦いたくなどなかった。学校に爆薬が仕掛けられていないのなら、二人は戦わなくて済む。――その後、どうなるかは分からないが。

 しかしとにかく、本当に学校に爆弾が仕掛けられているのかどうかを確かめる必要がある。将治は由樹にそれを伝えた。由樹も同じ考えだったようである。


《はん、そんなに爆薬の位置が知りたいか? なら教えてやろう。そこから一番近いのは……一年三組の教室に入れ》


 開け放たれた扉を潜る。


《教卓の方だ。教卓の下を覗いてみろ》


 将治は言われた通り教卓の下を覗き込んだ。暗くてよく見えないが、確かに何か置いてある。眼を凝らしてよく見ると、それはやはり爆弾のようである。小型のプラスチック爆弾。これだけなら大した被害にはならないだろうが、これが全教室で同時に爆発したとすると――確かに校舎は全壊するだろう。

 となるとやはり、自分たちは戦わなくてはならないのか。

 この学校には、五百五十人近くの人間がいる。それら全ての命と、たった二人の命。数で言えば比べるまでもない。結城も考えた事である。

 しかし、将治にとって由樹は大切な親友。由樹にとってもそうであろう。それと、全く知らない者たちの命。将治にとっての大切さで言えば、これもまた比べるまでもない。

 だがよく考えろ――将治は自分に言い聞かせた。

 仮に将治たちが戦ったとして、そして二十分以内に決着がついたとして、助かるのは五百五十人。しかし、将治たちが戦わなければ、その五百五十人は死に、それどころか、将治と由樹もどうなるやら分からない。他人から見えない、触れない、声も聞こえないでは、生きているとは言い難いのではないか。

 戦えばどちらかが死ぬ。戦わなければ学校の人間は死に、自分たちも生きているとは言えない状況に陥る。どちらがいいかは、言わずもがなである。

 そう言おうとした、その瞬間。由樹が「あのさ」と切り出した。


「やっぱり俺達……戦うしかないみたいだぜ」


 由樹も将治と同じ結論に至ったのだろう。その瞳には、深い哀しみと、覚悟が滲んでいた。


「ああ……そうみたいだな」


《やっと決まったか? 随分時間を使ったぞ! あと十五分だ!》


 男の声が聞こえた。

 将治はヴァンを握った。祈りと、願いを込めて。何の願いかは分からない。でも、そうしなければならない気がした。


「……行くぜ」


「ああ」


 将治と由樹が同時にヴァンを変形させる。将治は〈ソード・アンド・シールド〉。由樹はサーベルである。

 将治が変形させた〈ソード・アンド・シールド〉は、短めの剣と小さめの盾と言う感じだった。成程、攻防一体の戦闘ができる代わりに、その効果範囲は狭いと言う事か。オリジナルとは上手く釣り合いが取れている。ヴァンはソードの方に付いていた。これで結城戦のような事はそうそう起こり得ないだろう。

 互いに自分からは仕掛けない。それは、まだ戦いたくないと言う我が侭が、心の隅に残っているからだろう。二人の間に緊張感が満ちる。

 将治の頬を、冷や汗が伝った。落ちる。落ちて行く。それがひどく緩慢な動きに見える。しかしそれは実際には一瞬で――その汗が落ちた時、由樹が動いた。

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