虎は狼を喰らう
マジシャンは不敵な笑みを浮かべ、将治に対して拍手を送っていた。その余裕ぶりから察するに、将治が最初の脱出者なのだろう。
辺りを見回すと、将治が閉じ込められていたような縦長の箱が幾つも立っていた。その数八つ。将治を除いた生き残りの数である。
不意に一つの箱が崩れ落ちた。中からは田沼が出て来る。彼の無事に、将治はほっと胸を撫で下ろした。
「――面白い事をしてあげようか」
マジシャンの声だった。初めて聞く。意外と低かったので、将治は驚いた。
マジシャンは手の上に火の玉を作った。にやりと笑うと、それを投げつける。狙いは将治でも田沼でもない。――箱の一つだった。
二人が目を大きくする中、箱が炎上した。炎は一瞬で消え、そこには何も残っていなかった。
「ってめぇ!」
マジシャンはと笑いを堪えているようだった。おもむろに大きな深紅の布を自分の横に掲げ、一気に引いた。――しかしそこに、箱はなかった。つまり、からかわれたのだ。
「クソ野郎!」
田沼が叫び、同時に駆け出す。将治は止めようとしたが、間に合わなかった。田沼は敵が投げつけて来る火の玉を巧みにかわし接近した。
マジシャンは微笑を浮かべたまま、自分と田沼を紅い布で包んだ。それは二人の形を取ることなく地面に落ちた。
何が起こっているのかは分からないが、将治はステージに駆け上がり紅い布を切り裂いた。これがあると何かが起こる。逆に言えば、これが無ければ何も起こらない、或いはそこまで行かなくても、多少敵の動きを制限する事ができるのでは、と考えたのだ。
見れば、既に何人かが脱出を成功させている。その中には由樹の姿もあった。ほっとして将治は、由樹の許に駆け寄った。
「大丈夫だったんだ」
「ったりめぇだよ」
由樹は軽口を叩いた後、真剣な顔になって状況を尋ねた。
「俺も今さっき出てきたところなんだけど。その後田沼が出て来て、マジシャンが箱の内の一つを燃やしやがった。それで田沼がキレて飛び掛かって行ったら、紅い布で隠されて何が起こってるのか分からない。取り敢えず敵の持ち物だから、斬っといたけど」
由樹は眉根を寄せて、小さくなった紅い布を見つめた。
「つまり……あの布がどっかに繋がってるって事? 異世界的な」
「多分そう言う事だと――」
その時、誰も見ていなかったところで金属音がした。格子が落ちるようなガシャン、と言う音。そちらを見ると、巨大な檻の一面が開き、中から人影が出て来るところだった。
田沼かと思ったが違う。――それは、マジシャンの方だった。
――嘘だろ……田沼が負けた……?――
田沼はかなりの猛者だ。中学生に猛者も何もないかもしれないが、それでも、今残っているメンバーの中では体力もあるし運動神経もピカ一だ。その田沼が負けた。中で何が行われたのか分からないが、あのマジシャンもかなりの強敵と言う事になる。
正直、勝てる自信がなかった。
「さて、そろそろ時間だな」
微笑を浮かべたマジシャンが、時計を見ながら言った。
「ゲームオーバーだ」
マジシャンが指を鳴らすと、唯一残っていた箱が破裂した。この場にいないのは渡部と小川。どちらかは火の玉によって、もう一方はたった今マジシャンの指によって殺された。
さて。仕切り直しだ。今度こそあの男を斃す。将治は不敵な笑みを浮かべるマジシャンを睨みつけた。




