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とらべるぼーる  作者: 原雄一
第九章 中止《やめ》る
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鷹は仔羊に救われる

 この影を斃せばここから脱出できるかと思ったのだが、どうやらそういう訳でもないらしい。空間は相変わらず真っ白いままだし、マジシャンの姿は微塵も見えない。

 どうやって脱出するかと将治が思案していると、死んだはずの影がのっそりと立ち上がった。身体の方だ。首がないまま将治の方を向いている。

 かつて頭が胴体とくっ付いていた筈の場所から、奇妙な音を立てて何かが生えてきた。それは次第に形を成し、やがて――、

 顔の形になった。


「勘弁してくれよ……」


 将治は苦笑しながら、パワードスーツの胸元を掴んだ。血がじわじわと侵蝕している。このままではかなり不利だ。そうでなくてもどうやって斃すか分からないのに、そこに更に怪我と言う名のハンデがのしかかる。

 将治は後退しながら、ヴァン・ガンを乱射した。先程と同様に接近させない作戦である。そして考えた。どうすれば奴を斃せるか。

 影も将治に応戦して、ガンを撃って来た。弾丸が将治の頬を掠める。


 ――ん……? ヴァン……――


 その時、将治の頭の中にある閃きが浮かんだ。

 ヴァンを破壊した者は死ぬ。この眼で見た。正成が死ぬのを。そして奴はヴァンを持っている。

 殺せるかもしれない。影の持つヴァンを破壊すれば、影は死ぬかもしれない。確証はないが、他に方法は考えられない。将治はそれを試す事にした。

 将治は影のヴァンを狙ってガンを撃った。結城はもういない。時間を気にする必要はないのだ。

 しかし、敵もヴァン・ガンを使ってくるのではなかなかチャンスが訪れない。そこで将治は、苦肉の策を取る事にした。危険が伴う策だ。できる事なら使いたくなかったが――。

 将治は武器をガンからソードに変更し、影に接近した。影も即座に対応し、武器をサーベルに変える。

 影がサーベルを振るう。それを見計らって将治は後ろに飛び退き、武器をガンに戻した。サーベルの中心に据えられている黒い球体に照準をつけ――引き鉄を引いた。

 銃弾が飛んで行く。その動きがとても遅く感じられた。

 破裂音が響いた。見ると、影の持つサーベルから黒い欠片が飛び散っていた。影は『あ』と言うような表情をしている。初めて見る影の表情だった。

 影の血管が浮き出てきた。正成の時と同じ現象である。腕、顔、脚――そして全身の血管が浮き上がった時、影は破裂した。文字通り、跡形もなく。

 同時に、明かりが消えた。光源はまた蝋燭一本に戻っている。そして将治を囲っていた箱が崩れ、気付けばまたマジックの観客席にいた。

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