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とらべるぼーる  作者: 原雄一
第九章 中止《やめ》る
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鷹は閉じ込められ、獅子は溜息を吐く

 マジシャンは、火の玉を観客席に投げてきたのである。マジックによって警戒心が緩んでいただけに、反応が薄いとの評価を欲しい儘にする将治でも驚いた。火の玉は観客席の中央辺り――人はだれ一人いない――に落下し、炎の柱を上げた。綿の詰まった布が炎上する。

 将治たちは一瞬遅れて立ち上がり、即座にヴァンを変形させた。ソード、サーベル、シールドと様々だが、将治はソードである。

 マジシャンは不敵に笑い、もう一つ火の玉を作った。今度は何の仕掛けもなく、手からポンッと出したのだ。それを観客席側に投げる。今度は狙って来た。将治の脳天を直撃するようなコースだ。将治は瞬時に身を屈め、更に通路に転げ出た。

 その間にマジシャンはもう二つ火の玉を作り出していた。自在に操り、クラスメイト達を狙って来る。将治も何度か狙われ、その度に少しずつ前に出た。


 ――これは……誘導されてる?――


 明らかにそうだった。火の玉は必ずターゲットの頭を掠めるように飛んできていた。そうなると避けるためには身を屈め、前に出るしかない。前に出ればマジシャンとの距離は縮まりやがて舞台に乗り上げるだろう。奴は至近距離での戦闘を望んでいるのだ。

 しかし、そんな策に易々と乗る将治ではない。将治はヴァンをソードからガンに変形させた。片目を瞑り照準をマジシャンに合わせ、引き鉄を引いた。

 だがマジシャンは、火の玉を出した紅い布を振りかざして弾を弾いた。そして、将治を挑発するような視線を送って来る。

 それでも彼らは誘いに乗らなかった。火の玉を極力その場で避け、舞台の方へ近付かないようにしたのだ。諦めたのか、マジシャンは一つ深いため息を吐いた。

 マジシャンは片手を高々と上げた。視線がそちらへ集中する。

 マジシャンはパチンと指を鳴らした。すると将治の周りに薄い壁がせり出してきた。それは誰も同じようである。将治だけでなく、他のクラスメイト達にも同じ現象が起こっていた。

 将治はその薄い壁を思い切り殴りつけた。が、ビクともしない。脱出したかったが、既に壁は胸の辺りまでせり上がっており、脱出は不可能そうだった。


   * * *


「まったく、危なっかしい奴だ」


支配者マスター〉は、将治が箱に閉じ込められるのを見てため息を吐いた。

 危なかった。〈支配者マスター〉が〈胴〉たちの居場所を示すモニターから一瞬でも目を離していたら、将治は死んでいただろう。

 このモニターには、彼らの映像は映らない。彼らの居場所が赤い点として表示されるのみだ。しかし、危険な行動をしている者がいれば直ちに警報が鳴り、〈支配者マスター〉に知らされるシステムだ。その場合のみ、映像が映る仕組みになっている。

 将治は、平たく言えば〈支配者マスター〉のお気に入りだった。なかなか核心を突いた発言をするし、彼らを実質上取り仕切っているのも将治と言えた。その将治に、つまらぬことで死なれては堪らない。死ぬならば戦闘で死んでほしいものだ。

 将治が自殺し、〈死闘士ファイター〉となるのも一興だと思ったが、それでは次回以降の『ゲーム』で人死にが少なくなってしまいそうだ。それでは面白くない。それはできれば避けたい事だった。

 これで将治が自殺を諦めてくれればいいが――〈支配者マスター〉は思った。もしそうでなければ、またそれを止めるために召集しなくてはならなくなる。それでは今日中に『ゲーム』が終わってしまいそうだ。それはつまらない。楽しみはできるだけ長引かせた方がいい。

 将治の所為で、色々と段取りが狂ってしまった。Sに帰っていいと言ったそばから召集し、Sもいい迷惑だろう。

 とは言え、将治が落下するのを視るのはなかなかいい余興だった。〈支配者マスター〉はあの時、将治が地面に直撃する直前まで召集ボタンを押さず、その様を楽しんでいたのだ。

 もしも将治の自殺の方法が『ヴァンを破壊して死ぬ』というものだったら、〈支配者マスター〉にも止める事は出来なかっただろう。しかし将治はわざわざ、屋上まで行って転落死するという面倒な方法を取ってくれた。おかげで死に様を楽しむ事ができたし、自殺を止める事もできた。そればかりは感謝しなくてはと、〈支配者マスター〉は思っていた。

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