鷹は一匹の仔羊と話し、又もや驚愕する
長めです。
角井先生の話は長かった。一時間目が始まる直前まで話しており、終わると同時にいそいそと教室を出て行った。一時間目は理科で、担当は森発江先生だ。
やって来た森先生は、角井先生顔負けの高い声で授業を始めた。それでも授業はさっぱりしており、対した苦にはならなかった。
キーン、コーン、カーン、コーン……。チャイムが鳴った。
授業は終わり、挨拶をして先生は出て行った。皆は個人ロッカーに向かう。理科便覧を置くためと、次の授業――国語の準備をするためだった。国語の菅明良先生は、怒ると異常に怖い。ロッカーに忘れものなどしたら大変な緊急事態だ。周到に用意しなくては。
国語の一式を机に重ね、二時間目の用意が終わる。休み時間は十分間、残りは七分だ。
「そういやぁヨネ」
『ヨネ』とは米川の事だ。大抵の人が米川の事を『ヨネ』と呼ぶ。当の本人も厭うてはいないようだ。
「ん、何?」
呼ばれた米川が振り返る。
「なんでお前今日遅れたんだよ」
別段深い意味があったわけではない。ただ、休み時間中どうせ暇だし、なんか面白いことねぇかなーという実に単純な気持で聞いただけだった。
「…だから家族と話してて……」
「何を?」
間髪入れずに訊く。マシンガントークが将治の特技だ。
「いやちょっとさ」
歯切れが悪い。いつもの米川ならこんな事は無い筈だ。らしくもない。米川は一つ溜息を吐くと、顎を手に乗せて頬杖をついた。いや、『顎杖』か?
「何だよ、言ってみろって」
何度も言うようだが、別段深い意味がある訳でもない。しかし、らしくもない米川に何があったのが知りたかったし、ここで引き下がったら負けというような無駄な闘争心が芽生えたのだ。しかも良い暇つぶしになる。その程度にしか考えていなかった。――まだこの時は。
「……それがさ」米川は観念したのか、とうとう語り始めた。「昨日家に変なモンが届いて」
「変なモン?」将治は反芻した。「変なモンって?」
米川はまた溜息を吐いた。
「この位のさ」
自分の手で、消しゴムを横に二つ並べた程度の大きさを示す。将治は妙な既視感を感じた。あれ? この動き、どっかで見たな。
「ええと、何だっけ? 横から見ると菱形みたいな、三角のヤツ」
「正八面体?」
米川の説明はかなり抽象的だったにも拘らず、将治は即座に言い当てた。思い出したからだ今朝の話を。由樹との会話を。
「そうそう」米川は続けた。「その中に黒いボールが入ってんの」
だとしたらやはり――それは将治の家に届いた、『あれ』と同じだろう。恐らく、由樹の家に届いたものとも。
「…それ、俺ん家にも届いたんだ」
「え?」
米川は僅かに顔を突き出して訊き返した。目も少し大きくなっている。驚いた時の癖だ。が、驚いているのは将治も同じで、米川に聞き返されたところで同じことを繰り返すしかない。
「だから、俺の家にも届いたの。あと由樹のトコにも」
新たな情報も織り交ぜてみる。もう聞き返すなよ、そういう視線を米川に送った。
幸か不幸か、このタイミングでチャイムが鳴った。休み時間の終了を告げる鐘の音。将治も米川も、自席の戻るしかなかった。
ちょっと進展しましたね。無駄な描写が多いから中々進まんのです。