次なる虎は、奇術師
六月五日、十時四十二分。
将治は〈白い部屋〉に呼び出されていた。結城の言っていた、自殺者の末路かと思ったが、そうではなかった。
周りには、生き残っているクラスメイト達八人がいた。将治を含め九人。とても一クラスの人数とは思えない。
一瞬将治には、何が起きたのか理解できなかった。
――確かに、飛んだ筈だった。屋上から、校庭めがけて。
にも拘らず、生きている。いや、本当に生きているのかどうかは定かでないが、とにかく今はこうして戦いのための召集が掛かっているのだ。
つまり、自分が死ぬ直前に招集が掛かったという事なのだろう。さっきの今で早すぎないかと思われるが、そうなのだから仕方がない。〈支配者〉は、人間の死を観て楽しむ性格であるようだし――。
ヴァンからは、黒いハットを目深にかぶった男性が投影された。黒いスーツを着ており、外見から判断するにどうやら手品師らしい。ステッキも持っている。口元には不敵な笑みが張り付いており、凄腕である事を強調していた。
カチリ。転移が始まる。
辿り着いた先はどこかの劇場のようだった。客席に座っているのは将治たち九人だけで、あとは閑散としている。舞台には深紅の幕が引かれており、どうやら開演直前のようである。
ビーッというブザー音が鳴り響いた。同時に幕が開く。中から出てきたのは、先程のマジシャンだった。将治らは身構えたが、マジシャンが攻撃してくる様子はない。警戒姿勢を崩さないまま、ひとまず椅子に腰かけた。
マジシャンは手始めとでも言うように、かぶっている帽子を優雅にはずした。右手で持っていたステッキをくるりと回す。その間に、帽子は反転していた。
ステッキで三回帽子を叩くと、三回目で何羽もの鳩が飛び出してきた。将治は思わず拍手しそうになり、首を振ってとどめた。
マジシャンは帽子をかぶり直し、胸元から紅いハンカチを取り出した。それを広げて裏表を見せ、タネが無い事を確かめさせると、不意にそれをくしゃくしゃに丸めて右拳の中に収めた。息を吹きかけると同時に拳を開くと、ハンカチはなくなっており、代わりに左拳が握られている。マジシャンがそこに指を突っ込み、慎重に抜き出して来ると、それはやはり紅いハンカチだった。
今度はそのハンカチを無造作に振り始めた。そして何度目かで、何と紅から虹色のハンカチになってしまった。ところがそれに息を吹きかけると、また紅に戻っている。将治は密かに、タネが知りたかった。
マジシャンはまたもやハンカチを丸め始めた。今度はくしゃくしゃではなく、幾らかの空間を作ってある。すると、ハンカチがビクンビクンと波打ち始め。マジシャンがそれを広げるとそこには――火の玉が浮かんでいた。
「おお」思わず歓声が上がる。
――が、次のマジシャンの行動で歓声は掻き消えた。




