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とらべるぼーる  作者: 原雄一
第八章 敗北《まけ》る
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獅子は豹に明日を告げる

 コンコン、とノックする音がして、〈支配者マスター〉はモニターから顔を上げた。


「入れ」


「失礼します」


 入って来たSは一礼して、扉を閉めた。

「〈死闘士ファイター〉をやってくれるという事だったな」


「はい。私は〈支配者マスター〉のために生きていますから」


支配者マスター〉は微笑した。


「では早速本題に入ろう。こっちへ来なさい」


支配者マスター〉は、Sに向けて手招きした。


「は」


 Sは短く答え、〈支配者マスター〉のそばへ歩み寄る。


「君にはこれから一ヶ月間、〈ヴァン・モンスター〉と戦えるだけの訓練をしてもらう」


 意外だった。訓練も何もなく、そのまま戦場に送り込まれるのかと思っていたのだ。


「は……訓練ですか。では、現在の〈胴〉たちは……」


「放っておいて構わん」〈支配者マスター〉は即答した。「私のシナリオ通りに事は進んでいる。このモンスターで〈死闘士ファイター〉が死ぬのも予想通りだった。ならばこの後も、事態はシナリオ通りに進むだろう」


支配者マスター〉はそう言って、デスクの下にある引き出しを探った。そして、中から一束の紙を出してきた。


「これが私のシナリオだ」〈支配者マスター〉は、その紙の束をSに差し出した。「これを見せたのは、私から君への信頼の証だと思ってくれ」


「は、ありがとうございます」


 言いながらSは、〈支配者マスター〉から紙の束を受け取り眼を通した。


「――――……これは……」


 読み終えたSは絶句した。これまでの戦闘が、全て彼のシナリオ通りだったことにも驚愕したし、最後の戦いのシナリオがあまりにも酷だったからだ。


「どうだ、面白そうだろう?」〈支配者マスター〉は言った。「それはこれまでのシナリオの中で、最も気に入っていてね」


 Sには答えられなかった。率直な感想を口にすれば間違いなく殺されるだろうし、かと言って社交辞令を言う気にもなれなかった。ぎこちない動きで微かに頷く。


「このシナリオに〈死闘士ファイター〉は必要ない。君は次の『ゲーム』に備えて特訓してもらう」


 確かにその通りだった。このシナリオ通りに事が運んだならば、〈死闘士ファイター〉は必要ない。


「訓練といっても自主的なトレーニングではない。これを使ってもらう」


支配者マスター〉はヴァンを差し出した。


「ヴァン……ですか。しかし〈支配者マスター〉、ヴァンならば私も――」


 言い終わらないうちに、〈支配者マスター〉が口を挟んだ。


「分かっている。これは特別なヴァンなのだ。ある特定の場所にしか転移しない。その場所はこの世界ではなく、所謂異世界なのだ。君にはそこでトレーニングしてもらいたい」


「は、成程」


「このヴァンは転移した後、敵モンスターに形を変える。初めは弱いモンスターから、だんだんと強くなっていき、最後には今のロボットほどの強さになる」


 つまり、それと戦えという事か。


「それらと戦っている内に鍛えられるだろう。もしも死にそうになった場合は、君のヴァンを使って転移してくれ。その方法は……」


支配者マスター〉は転移の仕方を語り出した。Sは忘れないようにと、熱心に聞いていた。


「――以上だ。では、今日はゆっくり休みなさい。訓練は明日から開始だ。朝私が呼び出すから、それに応じてくれ」


「分かりました」


 応じない方法など、無いくせに。

 Sは、一礼してから退室していった。

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