獅子は豹に明日を告げる
コンコン、とノックする音がして、〈支配者〉はモニターから顔を上げた。
「入れ」
「失礼します」
入って来たSは一礼して、扉を閉めた。
「〈死闘士〉をやってくれるという事だったな」
「はい。私は〈支配者〉のために生きていますから」
〈支配者〉は微笑した。
「では早速本題に入ろう。こっちへ来なさい」
〈支配者〉は、Sに向けて手招きした。
「は」
Sは短く答え、〈支配者〉のそばへ歩み寄る。
「君にはこれから一ヶ月間、〈ヴァン・モンスター〉と戦えるだけの訓練をしてもらう」
意外だった。訓練も何もなく、そのまま戦場に送り込まれるのかと思っていたのだ。
「は……訓練ですか。では、現在の〈胴〉たちは……」
「放っておいて構わん」〈支配者〉は即答した。「私のシナリオ通りに事は進んでいる。このモンスターで〈死闘士〉が死ぬのも予想通りだった。ならばこの後も、事態はシナリオ通りに進むだろう」
〈支配者〉はそう言って、デスクの下にある引き出しを探った。そして、中から一束の紙を出してきた。
「これが私のシナリオだ」〈支配者〉は、その紙の束をSに差し出した。「これを見せたのは、私から君への信頼の証だと思ってくれ」
「は、ありがとうございます」
言いながらSは、〈支配者〉から紙の束を受け取り眼を通した。
「――――……これは……」
読み終えたSは絶句した。これまでの戦闘が、全て彼のシナリオ通りだったことにも驚愕したし、最後の戦いのシナリオがあまりにも酷だったからだ。
「どうだ、面白そうだろう?」〈支配者〉は言った。「それはこれまでのシナリオの中で、最も気に入っていてね」
Sには答えられなかった。率直な感想を口にすれば間違いなく殺されるだろうし、かと言って社交辞令を言う気にもなれなかった。ぎこちない動きで微かに頷く。
「このシナリオに〈死闘士〉は必要ない。君は次の『ゲーム』に備えて特訓してもらう」
確かにその通りだった。このシナリオ通りに事が運んだならば、〈死闘士〉は必要ない。
「訓練といっても自主的なトレーニングではない。これを使ってもらう」
〈支配者〉はヴァンを差し出した。
「ヴァン……ですか。しかし〈支配者〉、ヴァンならば私も――」
言い終わらないうちに、〈支配者〉が口を挟んだ。
「分かっている。これは特別なヴァンなのだ。ある特定の場所にしか転移しない。その場所はこの世界ではなく、所謂異世界なのだ。君にはそこでトレーニングしてもらいたい」
「は、成程」
「このヴァンは転移した後、敵モンスターに形を変える。初めは弱いモンスターから、だんだんと強くなっていき、最後には今のロボットほどの強さになる」
つまり、それと戦えという事か。
「それらと戦っている内に鍛えられるだろう。もしも死にそうになった場合は、君のヴァンを使って転移してくれ。その方法は……」
〈支配者〉は転移の仕方を語り出した。Sは忘れないようにと、熱心に聞いていた。
「――以上だ。では、今日はゆっくり休みなさい。訓練は明日から開始だ。朝私が呼び出すから、それに応じてくれ」
「分かりました」
応じない方法など、無いくせに。
Sは、一礼してから退室していった。




