鷹は仔羊の死に怒る
最近将治怒ってばっかり。
「いいか? あいつはかなりの強敵だ。俺の使える〈ヴァン・アックス〉でも潰せるかどうか分からねぇ」
結城は将治に囁いた。ロボットはすでに体勢を立て直しており、伸縮自在の腕による攻撃を繰り返していた。
「だから取り敢えず、ここは距離を置こう。奴が隙を見せるのを待つんだ」
結城の言葉に、将治もこくりと頷いた。そして周りにいた連中に身振りで『退がろう』と伝えると、自らも距離を取った。
その様子に、ロボットは一旦動きを止めた。頸を億劫そうに回し、辺りの様子を窺う。そして何を計算した結果なのか、真正面にいた結城に向かって、中途半端に指を曲げた拳を叩きつけた。
以前見せられた、ヴァンが埋め込まれている位置辺りを殴られ、結城は「ぐッ」と短く呻きながら吹き飛んだ。柔道でもやっていたのか、首を前に倒し両腕で床を叩きつけるような受け身を取ったが、それでもかなり衝撃を受けたらしく悶絶した。
「結城!」将治が駆け寄った。「無事か!」
「いまいち……無事じゃ……ない……」
所々、口をパクパクさせながら結城は言った。
「肋骨……やっちまったらしい……」
「結城!」
将治は結城の肩を揺すった。
「俺は……もう駄目だ……。将治、あいつを何とか――」
「ざけんなよ!」将治は結城の言葉を遮った。「お前に死なれちゃ困るんだよ! 弱音なんか吐くな!」
しかし結城が何も言わないので、将治はぎろりと睨みつけた。
その時、重い打撃音が響いた。将治が振り向くと、翠川が吹き飛ばされているところだった。
「翠川!」
翠川の後頭部が硬い床に打ちつけられた。そのまま横たわる。
「翠川! 翠川おい!」
しかし返事はない。呻くような声が続くだけだ。
やがて祐川が、うっすらと目を開けた。
「うぁ……国井」
将治の名を呼ぶ。
「翠川!」
「も……駄目……かも……。かもじゃなくて、駄目……」
「んなこと言うな!」
将治は、先程結城に言った事を繰り返した
。
「ううん……自分の事は自分が……一番良く、分かってる…から……。国井、あたし国井の事……」
翠川はそこで事切れた。――が、言わんとした事は、将治にも分かった。だからこそ、彼女には死なれたくなかった。
「翠川! 翠川おい! 目ェ開けろ!」
しかし彼女の目は、もう二度と開かれる事はない。涙が頬を伝った。
将治は涙を拭い、立ち上がった。
――翠川は最期まで、俺の事を好いていてくれた。俺はその想いに……応える!――
将治はサーベルを構えた。
「結城、見てろよ。俺があいつを斃してやる」
将治は床を蹴り、ロボットに切っ先を向けた。
「おおオ」と声を上げ、気合を入れる。高く跳び、ロボットの肩口めがけてサーベルを振り下ろした。――が、硬質な肩に弾き返され、腕に衝撃が走った。
ロボットは拳を伸ばしてきた。間一髪のところでサーベルで防いだが、空中であるため踏ん張りが利かず、吹き飛ばされた。何とか着地したが、足の裏に強い痛みが走る。
ロボットはそのまま間合いを詰めてきた。将治も一歩前に出る。この敵は、退がって勝てる相手ではない。ならば、攻撃あるのみだ。攻撃は最大の防御という言葉もある。
将治のサーベルは、ロボットの拳が将治に当たるよりも僅かに早くロボットの胴体を斬撃した。しかしロボットは微動だにせず、拳が将治に当たり――そうになった時、不意にロボットの拳が弾けた。否、弾けたというのは比喩にすぎない。正確には、拳が何らかの反動により若干ずれたのだ。拳は空を切り裂いた。
見ると、田沼がヴァン・ガンを構えて将治の背後に立っていた。視線は鋭く、ロボットを捉えていた。
――そうだ、俺は一人で戦っているんじゃない――
人数は減った。しかし自分には、支えてくれる仲間たちが――或いは仲間たちの遺志が――ついているのだ。
将治はまた、ロボットに向かって行った。




