脳
説明ばっかりです。
澤田良一、すなわちSは、薄暗い空間の中で椅子に腰を預けながら彼らを見ていた。白い机――尤も部屋が薄暗いので、真っ黒に見える――にはS含め二十六人が集まっており、皆一心に映像を見つめていた。
この映像は机の中心に備えつけられているヴァンより投影されており、不鮮明だが様々なアングルから二年二組のメンバーと結城を映し出していた。集まっている二十六人は思い思いの体勢でそれを眺めている。Sは右手で口を覆い、その肘を机につきながらやや前傾姿勢で見ていた。
ロボット――名は〈B―JAⅡ〉――の背後に現れた結城は、サーベルで後頭部を強く斬撃――と言うより打撃――し、B―JAⅡの放ったビームをかわし、首筋を斬撃した。しかしB―JAⅡには殆ど効いておらず、最初の打撃に若干ぐらついただけだった。
ここに集まっている二十六人はこのゲームの〈脳〉と呼ばれる中枢組織だ。全員がアルファベットで表記される階級を持ち、〈支配者〉から絶大な信頼を受けている。〈死闘士〉がこの中から選ばれる事もある。結城の前の〈死闘士〉は〈脳〉の内の一人だった。
〈脳〉は、自殺者から選定された〈死闘士〉よりも、ヴァンに選ばれ戦っている者たちよりも強く束縛される。ただし会合、戦闘召集、緊急招集の時以外は部屋から解放され、一般人に交じって生活する事を許されている。しかし逃げる事は許されず、どれだけ遠くに行こうとも召集され、事故・事件、或いは病気以外の死――自殺などを行っても無駄だ。そんな事をすれば余計に強く束縛され、〈脳〉からは脱退し〈左手〉となる。
〈左手〉と言うのは、現在の〈支配者〉の曾祖父が集めたモンスターたちを統制し、抑制する役割の者たちだ。死ぬ確率が非常に高く、最も危険な役職とされているため罰に使用される事が多いのだ。
逆に、〈支配者〉の世話を焼くかつてのSのような役割を〈右手〉と呼ぶ。これは安全と思われるが、少しでも〈支配者〉の指示に沿わなければ即刻殺される事となる。このゲームに裏で関わる者たちは皆、この〈右手〉という役職からスタートするのだ。そこから〈脳〉になるか、或いは〈左手〉になるか、はたまた別の役職かと言うのが決定されるのだ。
他にも〈脚〉という役職がある。これはターゲットの選定、下調べなどの足を使った調査を行い、つまるところ使い走りである。
そして〈胴〉。人体において最も重要とも言えるこの部分は、ヴァンに選ばれ戦っている者たちの事を言う。それは〈死闘士〉とて例外ではなく、今回で言えば将治らと結城という事になるのだ。
結城が一人の少年と話しているのが視えた。彼が恐らく、〈支配者〉から聞かされていた『国井将治』だろう。彼は冴えた少年で、随分と核心を突いているらしい。もしかしたら、自分のパートナーとなるのはこの少年かもしれないな、とSは心の中で呟いた。
Sら〈脳〉がいるこの部屋は、〈頭蓋〉と呼ばれていた。生物の身体において脳が入っているのが頭蓋の中だからというのもあるし、何よりこの部屋の構造からだった。
〈頭蓋〉は、〈脳机〉と呼ばれる机が中心にあるだけで、あとは全く殺風景な空間だ。薄暗く、〈脳〉が集まるためだけにある。部屋自体は丸く、片方の天井が低くなっており、そちら側に立場の低い者が座る。外を見るための窓は下手側に二つ。扉も下手側で、ボタンを押すとシャッターのように上に開くという仕掛けだった。
つまり、部屋全体が頭蓋を模して作られているのだ。
Sは現在、下手側の最も天井が低く、最も窓と扉に近い処に座っていた。ヴァンより投影される映像は遠く、不鮮明なため視にくかったが、Sは最も隔離されたこの席を密かに気に入っていた。
自分の表情の変化を、悟られずに済むからだ。
他の者は、大抵がニタニタしながら映像を見ていた。〈支配者〉と同じく、人の死を見て楽しむという醜悪な趣味の持ち主ばかりなのだ。
しかしSはまだ、人間を捨ててはいなかった。
少年たちが危険な時は密かに冷や汗をかくし、少年たちが無事に帰った時には密かに喜ぶ。未だ――恐らく彼だけが――人間なのだった。




