仔羊たちは自ら小屋の中に来る
新大西中学校――。
二人は学校に着いた。その頃にはもう正八面体の事など忘れており、いつものように他愛の無い話を続け、のんびりと教室に向かっているのだった。
二人のクラスである二年二組は、校舎の三階にある。向かって奥から四番目だ。中央階段を使うのが一番早い。が、下駄箱は北階段側にあり、そこから中央階段までは少々歩かなければならない。
二人は上履きの踵を踏んだまま、歩き出した。
教室には既に十人が集まっていた。黒川幸太郎、野際明久、原口遼、翠川七江、鈴鹿美帆、田淵沙希、出川夕里、土肥優里枝、御調奈菜、奥島瑞穂である。時刻は八時七分だった。
「由樹。国井」
最初に声を掛けてきたのは野際だった。野際はどういう訳だか将治の事を見ると愉快そうに笑う。由樹とは小学校からの付き合いであるため、名前で呼んでいるのだ。
「おう国井」
次に声を掛けてきたのは原口だ。原口は最近髪を切ったらしく、角刈りに近い髪形だった。
将治は廊下側の列、最後尾にある自席に鞄を置いた。ふう、重い重い。これだから俺の身長は伸びないのだ。
「国井っ」
掛け声と共に将治の尻に蹴りを叩き込んできたのは、黒川だ。黒川は粗暴な性格のため、若干嫌われている。将治は「いて」と静かに答えた。
その後、他のメンバーたちもパラパラと登校してきた。しかしどうも出足が遅い。誰も彼も――特に女子――が中々揃わなかった。
チャイムが鳴り、担任の角井美也子が入ってきた。「はーい」と甲高い声で言う。将治は今朝の目覚まし時計を連想した。
「それじゃあ今日も――」
言いかけた処で、遠山英治と杉山克義が教室に入ってきた。遠山は少し急いだようだが、杉山は急いだ様子もない。悪びれた様子もない。性質が悪い。
杉山は眉を八の字に曲げ、右手の人差指で額をポリポリと掻いた。先生に「杉山君?」と言われても、少し怒った様子で「はぁい」と答えるだけだった。
そして最後。米川健次郎――は、まだ来ない。まあいつもの事だ。米川は遅れてくると、「いや信号が赤で」とか「ネクタイ探してて」とかいう見苦しい言い訳を披露する。今日はどんな言い訳だろうか。潔さという点では、杉山の方が勝っていた。
角井先生が朝の連絡事項を述べていると、米川が控えめに入ってきた。少しは反省しているのだろうか。
「米川君、何で遅れたの?」
角井先生が尋ねた。
「いやちょっと、家族と話してて……」
米川の返事はどうも歯切れが悪かった。遅刻の言い訳に、普段は『……』は付かない。それに、家族とのコミュニケーションが学校に遅れる程大切だったのだろうか。
「ふうん、まあいいいや」角井先生は言った。「取り敢えず席着いて」
米川は席に着き、何故か将治の方に意味深な視線を送ってきた。
うーん、終わり方も意味深。