鷹は狼と協力し、虎を喰らう
ドォン、と盛大な発砲音がした。実際は周囲がガンを打つ音と何ら変わりなく、目立つ音ではなかったが、将治にはいささか大きく聞こえた。
エネルギー弾は、将治の抛ったヴァンの本体を伴って、少年に向かって一直線に飛んで行った。胸元辺りを目指している。
少年は、セオリー通りクラリネットを吹いた。将治の右肩を破壊した、例の低い音。それはエネルギー弾を木端微塵にしたが、ヴァンの本体は砕けることなく少年の胸を貫通した。
少年は胸に空いた孔を一瞥し、少しぽかんとしてから血を吐いて倒れた。左手は苦しそうに胸をかきむしっている。荒い呼吸音が聞こえてきそうだ。
将治は、作戦の成功を知り心底安堵した。失敗する可能性の方が高かったので、思わずほぅっとため息が出た。
将治の立てた作戦は、つまりこう言う事である。
将治が抛ったのは、以前正成が叩き壊したヴァンの本体だった。ハンカチに包んでポケットの中に突っ込んでおいたのを忘れていたのだ。そしてそれを、田沼がガンで撃った。エネルギー弾であるため本体は破壊されず、一緒になって飛んで行く。弾は少年のクラリネットによって破壊されるが本体は無傷、余力によって少年の胸を貫いたのだ。ヴァンは生き物を分解する。その効果により、少年の胸は分解され、孔を開けた。
少年は苦しげに呻き、クラリネットを口に咥えた。そして最期の力を振り絞り、全力で吹いた。
激しい衝撃が、瞬時に広がった。
「伏せろ!」
将治は叫んだが、最早遅かった。民家に近かった将治や田沼はそこに飛び込む事ができた。殆どの者がそうだっただろう。しかし一部の者は反応が遅れ――或いは場所が悪く、かわす事ができなかった。
民家の破片が飛び散った。それと同時に、何人かが転げて来る。将治は瞬時に眼を走らせた。今吹き飛んで来た内、一番危うい状況なのは――唐沢だった。
肩や腹からの出血が激しい上に、飛んで来た民家の破片が直撃している。脇腹をそれに潰され、その勢いで鼻血も噴き出していた。口からも鮮血が流れている。
「唐沢ッ!」
彼女はまだ息があった。と言っても、掠れるような息で、文字通り虫の息だった。
「あ……う…」
肺が潰されているのか、喋る事も呼吸をする事も困難そうだった。喘ぐような声を漏らしながら、苦しげに顔を歪めていた。
「唐沢! 唐沢おい!」
何人かが声を掛けた。しかし、返って来る反応は引き続き呻き声のみ。将治は焦った。
何故転移しない。早く転移して――白い部屋に行けば、傷は治り助かるのに。今回に限って何故――。
その答えはすぐに分かった。少年がまだ生きているのだ。薄気味悪い笑みを浮かべながら。ヒューヒューと浅い呼吸を繰り返しながら。
「くそがッ!」
将治は少年に止めを刺しに行った。――しかしその中途、地面に転がっているヴァンを踏みそうになり危うく踏みとどまった。
ゴフッと血を吐く音が聞こえた。少年かと思ったが、違った。振り返ると、唐沢が絶命していた。
将治は激しい憤りを感じた。〈支配者〉に対して、少年に対して、自分に対して。少年がヒヒヒと意地悪く笑っているのが腹立たしい。将治は足下に転がっているヴァンの本体を、慎重に拾い上げた。そして少年に近づき、ぐしゃりと頭を踏み潰した。
途端に視界が歪み、転移が始まった。




