鷹は鼬と会い、驚愕する
時間だ。行かなければ。
将治は制服のブレザーを引っ掴んで、勢い良く羽織った。床から重い荷物を「よいしょ」と持ち上げる。時刻は七時四十分だった。
将治が住んでいるのはマンションの二階、六号室だった。マンションには三つエレベーターが備え付けられており、一番北側のエレベーターから入れるのは一号室から六号室まで、即ち将治の部屋までだった。
将治はエントランスの自動ドアを潜り抜けた。自動ドアはガラス張りだった。その直ぐ隣に管理人室がある。集合ポストもそこだ。
将治が家を出ていく時間には、管理人は大抵居なかった。管理人室の電気は点いているのだが、本人の姿がいつも見えないのだ。今日もいなかった。何をしているのだろう。管理人室の時計は七時四十八分になっていた。この時計は五分ほど早い。
将治は信号を二つ渡り、『いつもの場所』へ向かった。そこで床屋の息子、浅井由樹と待ち合わせているのだ。
程なくして由樹は現れた。浅黒い肌にソフトモヒカン、丸い顔に大きな目。どこか『キューピーちゃん』を彷彿とさせる顔だった。『せんとくん』でもいい。
由樹は小走りに近づいて来、「おは」と挨拶をした。将治はそれに倣い――はせず、普通に「おはよう」と返した。
登校中に話題が途絶え、将治はふと思い立って、「昨日さ」と切り出した。
「ん?」
由樹もこちらを向いた。
「昨日さ、なんか変な物が届いたんだよね」
その言葉に、由樹の眉がぴくりと動いたのは気のせいだろうか。
「…どんな?」
珍しく、由樹が訝った。
「何かこれ位の」
将治は指で、消しゴムを横に二つ並べた位の大きさを示した。
「半透明の正八面体で、中に黒い玉が入ってるやつなんだけどさ」
由樹の視線が不規則に揺れた。
「差出人不明で、宛先が俺になってたんだよね……どしたの」
由樹がいつになく落ち着かない顔をしていたので、将治は訊いてみた。
「……それ……」
ごくりと唾を飲み込む。
「俺の処にも届いた」
「えっ?」
将治は思わず訊き返した。同じ物が、由樹の家にも?
しかし、それ以上話題が蒸し返される事は無かった。由樹が意図的に話題を変えたからである。将治もただ事でない気配を察したのか、由樹に合わせた。
何か会話ばっかりでしたね。