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とらべるぼーる  作者: 原雄一
第四章 殴打《なぐ》る
30/74

狼は自らを犠牲に、虎を喰らう

「おおおおおおおおおおおお」


 黒川は、渾身の力を拳に込めた。アリジゴクの胃液か何かが自分の身体を溶かしているのが分かったが、構っていられなかった。

 黒川は拳を突き出した。ありったけの力を込めて。クラスメイトの事を想って。アリジゴクの柔らかい胃は歪み、孔が空き、腹に到達した。幸い中は幾らか柔らかいらしく、はっきりとした手応えがあった。

 破片が飛び散った。黒川の拳はアリジゴクを突き破り、それと同時に骨が露出した。胃液によって溶かされたのだ。

 田沼が見えた。将治が見えた。クラスメイトが見えた。この二ヶ月間、学校での生活を共にしてきた仲間達が。

 辺りが、真っ暗になった。



「黒川ッ」


 田沼が叫んだ。同時に駆けだす。

 将治も走り出していた。一瞬だけ黒川の姿が見えたのだ。その時彼が、少しだけ笑った気がした。今まで見た事のない、穏やかな笑みだった。


 ――くそっ、何だよ、まるで最期みたいじゃねぇか――


 いやな予感はしていた。いや、そんな予感などヴァンが届いてからいつも感じていたが、今回のは確信的だった。友を失うと言う確信的な予感。それを将治は、確かに感じていたのだ。

 後ろから何人も駆け寄って来ているのが分かる。将治はアリジゴクのばらばらになった身体を次から次へと抛り捨てた。

 遂に黒川が見つかった。しかしそれはもう、『黒川』と呼べる状態ではなかった。皮は溶け、肉或いは骨が見えている。ポロシャツもバトルスーツも溶け落ち、無残な姿となっていた。

 黒川は将治の姿を確認したのか、途切れ途切れに言った。


「う……あ、国…井……」


「黒川!」


「あ…た、田沼に……謝…って………」


「馬鹿野郎、自分で言えよ!」将治は酷と分かっていながら言い放った。「俺に頼むんじゃねぇ。ほら田沼」


「あ…田ぬ、ま……ごめ………………」


 黒川はそこで事切れた。

 田沼は砂漠の砂を叩いた。「クソッ!!」と大声を上げ、天を仰いだ。


「ああくそ――何で……畜生!!」


 田沼は、文章になっていない言葉を発し続けた。後悔、自責、懺悔、悲哀――様々な感情が交差し、うまく言葉にならなかったのだろう。

 カチリ。タイマーは、十五分に達していなかった。



「くそ……」


〈白い部屋〉でも、田沼は悔やみ続けた。あまりにも悲しんでいたので、結城にも掛ける言葉が思いつかなかった。


「田沼――」将治は呼び掛けた。「落ち着けよ、お前の所為じゃないって」


 しかし、それが意味のない事である事くらい分かっていた。しかしそれでも将治は、慰めずにはいられなかった。


「――今回手に入れた〈ヴァン・ウェポン〉は〈ヴァン・ソード〉だ」結城が気まずそうに言った。「初の攻撃能力を持つ〈ヴァン・ウェポン〉だな」


 その声は悲しく部屋に吸い込まれていった。


「田沼……」


 宮川、桜庭らが慰めには言った。田沼は幾らか落ち着いてきたようである。


 ――くそ、無力だな――


 将治は己の無力を痛感していた。友達を護る事も出来ない。それどころか、落ち込んでいる友達を慰める事すら出来ない。ならば何ができる――。


「将治」結城が声を掛けてきた。「凹むなよ」


 まるで心を見透かしたような台詞だった。少しだけ、救われた気がした。

 カチリ。時間だ。

 第四章《vsアリジゴク編》完結。


 死亡:十二人

    加藤 健一

    黒川 幸太郎

    齊藤 正成

    杉山 克義

    遠山 英治

    八島 悠二

    石川 舞香

    河本 詩穂

    柴田 遥子

    鈴鹿 美帆

    土肥 優里枝

    御調 奈菜

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