鷹は寝床から這い出、外を見る
五月二十九日、朝。
中学二年生の国井将治は、目覚まし時計に叩き起こされた。高い音で啼く機械の頭頂部を撫でてやると甲高い音は止み、黒い部屋に空虚な時間が訪れた。
「ちぇ」
今日も学校か――将治は軽く舌打ちし、もぞもぞと布団から這い出る。時間は六時十分。まだまだ寝足りない。――が、そうも言っていられない。学校に遅刻する訳にはいかないのだ。
とは言っても、学校にはまだ充分時間があった。それでも早く起きるのは、将治の趣味であり、特に目的がある訳でもない。
リビングに向かう前に将治はトイレに入った。これも日課だ。用を足し、蛍光灯のスイッチを切る。明るい処にはもう目が慣れた。
リビングに行くと、母と父が「おはよう」と声を掛けてくる。まだ眠いので「おあよー」と呂律のはっきりしない口調で返した。猫の形をした眼鏡スタンドから黒縁眼鏡を抜き取り、手早く掛ける。これが無いと何も見えないのだ。
テレビではフジテレビが付いており、『めざましテレビ』の軽部アナウンサーが、いつものように軽快且つ正確にニュースを伝えていた。
《……警察は、行方不明の島田さんの行方を……》
物騒なニュースだ。もっと明るく楽しいニュースは無いのか。そう思っていたら、大嫌いな『AKB48』のニュースが始まったので、思わず目を背けた。
前田脱退の時は、友人で同じくAKB嫌いの原口と諸手を挙げて喜んだものだ。数ヶ月前のメールのやり取りが思い出された。
ふと窓の外を見ると、パラパラと小雨が降ってきていた。まるで、この先に何か厭な事が起きると予言しているようだった――。
全国のAKBファン或いはオタクの皆さん、すみませんでした。