表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/31

その22



○登場人物


  宮尾大和・みやおやまと(特に何かに秀でたこともなく毎日を生きている)


  橋山加奈子・はしやまかなこ(生まれつき病気を抱えたまま生きている)


  南江くるみ・みなみえくるみ(加奈子の友達で良き理解者)


  山津高志・やまづたかし(大和の小学校からの友達)


  村石樹・むらいしいつき(大和の中学校からの友達)


  武正七恵・たけまさななえ(大和の高校の同級生、自由人で大和を気にかけてる)


  橋山達夫・はしやまたつお(加奈子の父親、医者で加奈子の病気を気にかけてる)


  橋山時枝・はしやまときえ(加奈子の母親)





 年末年始は毎度のようにだらだらと過ごした。


 リビングでごろごろ、部屋でごろごろ、朝から夜まで。


 寝正月とはこういうことを指すんだろう。


 それでも、山津と村石とは元日に会って神社に行った。


 混みあってる人の波を抜けて願いごとをする毎年恒例で正月定番の光景。


 願いごとは例年のまま、みんなの健康、みんなとの関係ってところ。


 その後はファミレスで近況や思い出話を延々と続けた。


 楽しければそれでいい、そんなところも変わらない。


 加奈子ちゃんとは4日に神社に行った。


 そんなに混んではない中をするりと抜けて願いごとをする。


 願いごとは例年のまま、加奈子ちゃんとの関係について。


 ただ、今年はいつもより多くの画が頭に浮かんでいた。


 去年は年末にいろんなことがありすぎたから。


 あれで加奈子ちゃんを悩ませてしまってるのか、逆に感情を吐きだせたのがよかった


りしたのかは分からない。


 見たかぎりだと、加奈子ちゃんは完全に回復してるとはとれない。


 まだ悩んでるんだと思う。


 そうさせてるのが自分のせいだと思うと、僕もまたやりきれなかった。


 その後は年末年始の話をしたりして、僕は午後から部活に行くことになってたから駅


まで歩いていく。


 「ちょっといい?」


 その途中、腕を持たれると静かに横道に引かれていく。


 どうかしたのかなと思ってると、そこからさらに横の建物に引かれていく。


 その建物を見て、ホテルと書かれてることに驚いた。


 人通りからは隔たれた入口との間にある小さな空間で歩は止まった。


 加奈子ちゃんは何も言わずに僕の目を見てくる。


 言葉にするのははばかられるけど、何かを委ねている。


 どうするかの判断は僕次第でいいということなんだろう。


 どうするもなにも、急にこんな場所に放られて即答なんてできない。


 これが普通のカップルなら違うんだろうけど、僕らはそうじゃない。


 簡単な答えなんて出せない。


 「やめよう。体にさわる」


 そう宥めるように言った。


 加奈子ちゃんが武正の言葉の影響でこうしてるのは分かる。


 僕に無理をさせてると思って、無理をしてしまってる。


 「うぅん。たぶんね、考えすぎなんだと思う。本当はそんなに無理なことじゃないん


だよ」


 自分に言い聞かせるように言っていた。


 無理かどうか分からないことをするわけになんていかない。


 「そうはいかないよ。無理かどうかなんて分かんないんだし」


 「いいの。最近そんなに気分悪くなってないし、大丈夫だよ」


 加奈子ちゃんの表情は作られた明るさだった。


 僕に判断をさせにくくしないように。


 本当は相当な不安を抱えながら言ってるにちがいない。


 そうさせていることが僕には辛い。


 そっと加奈子ちゃんを抱きしめると、そのまま言葉を発していく。


 「ありがとう。でも、本当にいいんだ。そんなふうに気をつかわなくて。そういうこ


とよりも加奈子ちゃんの体がそれで壊れてしまう方が僕は嫌だから」


 しっかりと伝えて、抱きしめる手に力を入れる。


 「分かってくれる?」


 そう聞くと、小さめな声で「うん」と返ってきた。


 安心して体を離すと、目の前に見えた加奈子ちゃんが「でも」と呟いた。


 「私、大和くんに何もしてあげられない」


 下を向いて、力なく言っていた。


 「そんなことない。僕は加奈子ちゃんが一緒にいてくれるだけで本当に嬉しい」


 だから、そんなふうに思わないで。


 「でも」


 まだ加奈子ちゃんには迷いがあった。


 武正に突かれた傷は厄介に残っている。


 「信じてもらえないかな」


 そう訊ねる。


 加奈子ちゃんの思いも分かる。


 武正に痛い部分を突かれてしまった。


 僕に無理をさせてると思ったら居たたまれなくなった。


 だけど、病気は加奈子ちゃんのせいじゃない。


 その葛藤の中を漂っている。


 「うん」


 そう答えてはくれたけど、それが力にはなってくれてないようだった。


 そこを離れることはできたものの、わだかまりが全て解けたわけじゃなかった。




 それからいくらかは大きな出来事のない日々が続いた。


 でも、決して穏やかとは言いきれないものだった。


 加奈子ちゃんとの関係はだんだん回復に向かっていった。


 2人の時間を重ねていくことで次第に前の関係に近づけていけた。


 ただ、埋まりきらないものもあった。


 まだ心の奥にわだかまりがあるのはなんとなく察することができた。


 表面上は普段通りにいるんだけど、一度空いてしまったものを繋げることは難しいよ


うだ。


 どうすれば解決できるんだろうと考えてはいるものの、明確な答えには辿りつけずに


いる。


 そして、もう少し時間が必要なのかもしれないと安易なところに落ちつくのが毎度の


こととなっていた。


 「なんかさ、どっか変じゃない?」


 珍しく南江から電話が来たときにそう聞かれた。


 僕のことじゃなく、加奈子ちゃんのことだ。


 「加奈子さぁ、落ちついちゃったっていうか。基本的には変わってないんだけど、た


まにボーッと考え事してたりするの。こっちが指摘しても、なんでもないって笑ってご


まかすだけだし」


 そういう節は僕といるときにもたまに見られた。


 僕はそこを指摘はせずに見送っているけど。


 僕は理由を把握しているから疑問にまでは行きつかない。


 けれど、南江はそれを知らないから疑問になっている


 「進路のこととか考えてたりするんじゃない?」


 「そうかなぁ」


 「そうじゃない? こっちも気にするようにしてみる」


 そうはぐらかしておく。


 理由は伝えられなかったから。


 理由を引きおこした出来事を知ったら、南江に激しく非難されることだろう。


 僕の意思じゃないなんてことは言い訳にしか取られないだろうし。


 ヘタしたら、武正のところまで怒鳴りこみに行く可能性すらある。


 この2人が相対する場面なんてあったら只事じゃすまない。


 絶対に危険だ。


 そう自分の中で完結しておく。


 その武正はというと、あいかわらずの自由人だった。


 ああいう形に収まったものの、それからも普通に僕の前に現れてきていた。


 さすがに、2人で遊びに出かけることはなくなったけど。


 何事もなかったようにとまではいかないけど、それに近いぐらいに武正は武正のまま


だった。


 それでも、あのときのように理性を超えたものには一線が引かれてるのは分かったか


ら、こっちも無理に拒むことはしなかった。


 「ほいっ、あげる」


 バレンタインの日も急に現れて、そう目の前に紙袋が置いた。


 「本命なのか二番手なのか、それは神のみぞ知る」


 よく分からない言葉とともにチョコは向けられてきた。


 僕はそれを受けとるのを当然ためらった。


 加奈子ちゃんとのこともあるし、受けとるべきじゃないんじゃないかと思って。


 そう渋る様子を出すと、武正は露骨に息をついた。


 「貰えって。あのさ、一人で何個も貰ってるやつだっていんだぞ。そん中には彼女い


るやつだっているし。別に、貰うぐらいで何ってことじゃないだろ。言っとくけどな、


チョコ受けとらないなんて相手に対する侮辱だぞ」


 武正の言ってることはもっともだった。


 彼女がいても他の子からチョコを貰ってる男なんていくらでもいるだろうし、一生懸


命作ってきてくれたものを受けとらないなんて失礼でしかない。


 「ありがとう」


 一応、そう返した。


 「ここで食べて」


 今年もいきなり投げられた直球に驚く。


 「いや、無理でしょ」


 「食べないと全部バラしちゃうぞぉ」


 言うことを聞かない子供をたしなめるように柔らかく突きさしてきた。


 別に、全部バラしたところでマイナスになるのは武正なんだけど。


 そこで僕がどうともしないことを知ったうえでからかってるんだろう。


 まったくもって困ったもんだ。


 素直に従って紙袋の中身を取りだし、包みも開けてチョコを食べた。


 クラスメイトには見られ放題。


 おそらく、この学校の人たちには僕らが付き合ってることになってるんだろう。


 まぁ、事実はちゃんとあるんだから構いやしないけど。


 「どう」


 「美味しい」


 実際に味は美味しかった。


 「マジ? やった」


 こっちの気も知らず、武正は無邪気に笑ってた。


 「ねぇ、彼女とはどうなってんの」


 そう包みを閉じたチョコを紙袋に閉まって渡してくる。


 あれ以来、武正から定期的にこの質問をされている。


 どうやら、あの「隙があったらいつでも奪ってやっかんな」って言葉は嘘じゃないみ


たいだ。


 「変わらないよ、何も」


 そう返すと、「あっそ」とそっけなく言われた。


 武正は変わりなく彼氏との関係を続けている。


 ドライブに連れてってもらった、高めのレストランに行った、気に入った洋服を買っ


てもらった、そう自慢げに語られたりもする。


 僕や加奈子ちゃんでは出来ないデートをしてる優越感を表したいんだろう。


 そんな相手がいるのに、どうして僕にこだわるのかは不思議だったけど。


 ずいぶん後に、一度だけ聞いたことがある。


 「なんかね、宮尾は他とは違うんだよ。他の男子って友達と集まってないと不安って


感じで群れてたり、彼女が欲しいって前面に出てて女子を意識しまくってんだけどさ、


宮尾はそういうのがないんだよね。必要以上に男子と群れたりしないし、あんまり女子


を意識したりしないし。そういうどこつかずの雰囲気がなんとなく秘密っぽくていいん


じゃないの」


 言われたことに自覚はあった。


 確かに、そこまで男子と群れないし、女子を意識しない。


 友達は山津と村石がいればいいし、彼女は加奈子ちゃんがいるからいい。


 それ以上をそんなに求めていない。


 だから、高校では武正が言うように落ちついてしまってる。


 結果、それが武正を惹きつけることになっていたようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ