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その21



○登場人物


  宮尾大和・みやおやまと(特に何かに秀でたこともなく毎日を生きている)


  橋山加奈子・はしやまかなこ(生まれつき病気を抱えたまま生きている)


  南江くるみ・みなみえくるみ(加奈子の友達で良き理解者)


  山津高志・やまづたかし(大和の小学校からの友達)


  村石樹・むらいしいつき(大和の中学校からの友達)


  武正七恵・たけまさななえ(大和の高校の同級生、自由人で大和を気にかけてる)


  橋山達夫・はしやまたつお(加奈子の父親、医者で加奈子の病気を気にかけてる)


  橋山時枝・はしやまときえ(加奈子の母親)





 次の日は何事もなく過ぎて、その次の日に事は動いた。


 部活はこの日で年内は最後になるので、次に学校に来るのは新年になる。


 部活自体は普通にこなしたけど、その後に変化があった。


 また武正から「校門にいるから」というメールが来ていた。


 一昨日の話の続きだろうと向かうと、校門に武正の姿があった。


 「うっす」


 「うん」


 今日も普段の快活な様子とは違う感じだった。


 「行こう」


 そう連れてかれたのは一昨日と同じファーストフード店で席も同じところに座った。


 武正はドリンクに口をつけて開口する。


 「彼女に会ってきたよ」


 言葉の意味を理解するのは難しいものだった。


 武正が示してる対象はおそらく加奈子ちゃんのことだろう。


 でも、会ってきたってどういうことだ。


 加奈子ちゃんはまだ検査入院をしてるから病院にいるはずだ。


 そして、武正には加奈子ちゃんの病気のことは言ったことがない。


 なのに、どうやって会えるっていうんだ。


 「いつ」


 「昨日」


 昨日?


 昨日は部活をやった後、帰りがけに面会に寄っている。


 一昨日に武正と話をしたことをちゃんと隠さずに伝えた。


 どうしてあんなことをしたのかを伝えると、加奈子ちゃんはどうにも納得しきれない


ようだった。


 2人が根本的に異なるタイプだから仕方ない。


 そういう話をしたけれど、そのときに加奈子ちゃんからそんなことは聞かなかった。


 そんなことがあった様子も感じられなかった。


 「どこで」


 「病院でしょ」


 探りを入れてみると正答が返ってきた。


 武正は加奈子ちゃんが病院にいることを知っている。


 どうしてだ。


 「何で知ってるんだ」


 「聞いたの。あの子と同じ高校に行ってる友達に。どこの高校行ってるかはあんたか


ら聞いてたから、その子からいろいろ聞いて。病気持ちってことや原因が分からないっ


てことや冬休みは検査で入院してるってことも」


 そんな調べ方をしてたなんて。


 なんとなく不利に立たされたような気分になってくる。


 「だから、悪いけど昨日あんたの後を着けさせてもらったの。せっかくだから年末の


うちにケリつけとこうと思って。こんな感じで年越したくないし。そっちが面会してる


間は食堂にいて、その後に話させてもらった」


 話は昨日の面会の状況に進んでいく。


 食堂の窓から僕が病院を出る姿を確認して、武正は加奈子ちゃんの病室へ向かってい


った。


 病室に入ると、加奈子ちゃんは窓の外を眺めてたらしい。


 「どうも」


 そこに入っていくと、加奈子ちゃんからの反応はなかった。


 想定外のことが起こって、どうしていいのか分からない状態だった。


 「ここ、閉めるよ」


 返答を聞くことなく、武正は仕切りのカーテンを閉めた。


 来客用のイスに座ると、武正から話を切りだしていく。


 「直接話しようと思って」


 一昨日の僕に対するものと似たように挑発的ともとれる態度だった。


 気は高まっていたし、相手が病室のベッドの上とあれば優位にいる気分でいて。


 あのときの印象としても、一言も言葉を発せずに去っていった加奈子ちゃんに消極的


なものが正直あった。


 ただ、このときはそうはならなかった。


 「私も話があります」


 そう対抗するように返してきた。


 物怖じはあっただろうけど、なんとか視線を強くさせて。


 「何?」


 「どうしてあんなことするんですか」


 加奈子ちゃんも数えきれないほど頭を悩ませつづけた疑問を投げかけた。


 「宮尾から聞いてない?」


 「聞きました。でも、納得できません」


 考えても迷って、自分なりに答えを出しても消して、実際に答えを出しても呑みこみ


きれなかった。


 「聞いたんならそれだけだよ。それ以外にないから」


 武正の言ってることに嘘はない。


 だから、武正はそれで納得してもらうしかない。


 「どうして彼氏がいるのにあんなことができるんですか」


 ただ、加奈子ちゃんはそれでは納得ができない。


 根本的に異なる2人の間にある溝がそれをさせない。


 「だよねぇ。私もビックリしてさ。自分がまさかこんな嫉妬深いなんて」


 武正は加奈子ちゃんを納得させるのをやめて、交わすようにシフトした。


 「彼氏のことは好きじゃないんですか」


 加奈子ちゃんは追及を続けていく。


 マジメだから真剣な話を転がされるのは好まない。


 「まぁ、好きは好きだよ」


 「それなのに大和くんのことが好きなんておかしいじゃないですか」


 「そう?」


 「そうですよ。絶対におかしい」


 そんな状況を体験したことのない加奈子ちゃんにはそれが当たり前だった。


 「そちらさんには分かんないかもしんないけどね、世の中にはそういうこともあるん


だよ。私の周りではそれなりにあるし。結構、最近では珍しくないんじゃない」


 「じゃあ、その人たちが全員おかしいんです」


 「そちらさんは宮尾しか好きになったことがないから分かんないだけだよ」


 「そんなことありません」


 武正が丸めこもうとするのを、加奈子ちゃんは強く否定していく。


 一向に崩れそうにない様子に、武正は「あっそ」と息をついた。


 「あなたは何が望みなんですか」


 結局、溝を埋めるのを諦めて話を進めた。


 「彼氏がいるのにあんなことして。結果的にどうなりたいんですか」


 「まぁ、そちらさんが宮尾と別れてくれればいいなって」


 「あなたには彼氏がいるんでしょ」


 「そっちが別れてくれれば、こっちも別れるよ」


 「彼氏のことは好きなんでしょ。なのに、どうして別れなきゃいけないんですか」


 「もっと好きな人がいるから」


 どうにも話は解決に向かおうとはしない。


 話を進めてくだけで何も解決はされていない。


 そのことに2人も嫌な感情が募っていく。


 「ねぇ、聞きたいんだけどさ」


 それを打破してやろうと、武正が仕掛けた。


 「宮尾とエッチしたことある?」


 段階をいくつも飛びこえてきた質問に加奈子ちゃんは戸惑う。


 「いや、変なこと聞きたいんじゃなくてね。そちらさん、病気持ちでしょ。そういう


こと出来るのかなって思って」


 武正の質問は加奈子ちゃんが強くさせてた芯を柔らかくするには充分だった。


 現実、僕と加奈子ちゃんはそういう行為をしたことがなかったから。


 理由は単純に加奈子ちゃんの体に負担をかけないため。


 僕自身の個人的な願望はあったとしても、無理な運動はできない加奈子ちゃんには難


しいんだろうと思って。


 考えすぎかもしれないけど、何かあってからでは困るし。


 敏感に体が反応する行為は無理強いさせられないと決めて、暗黙の了解で踏みこんで


はこなかった。


 「そんなこと、あなたに言うことじゃありません」


 そう返したものの、質問の負の要素を払拭できるものじゃなかった。


 「別に、それならそれでいいんだけどね。でもさ、もしそういうことしてないんだと


したら、宮尾がかわいそうじゃん。向こうは普通なのにさ、何もできないんだよ。それ


に、将来的に子供ができるかどうかも分かんないわけじゃん。それに宮尾を付き合わせ


るのは独りよがりなんじゃないの」


 そう突きつめると、加奈子ちゃんは何も返してこなかった。


 きっとダメージはあっただろうけど、悟られないように隠したんだと思う。


 どちらにしても、平行線は最後まで縮まることはなかった。


 武正には消化できるものでも、加奈子ちゃんには無理だった。


 「大和くんにはもう近づかないでください」


 帰りぎわに忠告ぎみに加奈子ちゃんが向ける。


 「さぁね」


 そう交わして、武正は病室を後にしていった。


 それが僕の知らない、2人の間で起こった話だった。


 「あの子はダメだね。自分の気持ちばっか押しつけて、宮尾のことなんかそんな考え


てないよ」


 一通り喋り終えると、武正はまたドリンクに口をつけた。


 「そんなことない」


 「そんなことあるって」


 芯のない否定はあっさり覆された。


 「目先のことじゃなくて、何年後とかもっと先を考えてみろよ。エッチはしません、


子供もいりません、一生プラトニックな関係を続けます、それでいいのかよ。今はよく


ても、これからずっとそういられんのかよ。現実を見ろって」


 説きふせるようにそう突きつけてきた。


 すると、テーブルにあった僕の両手に武正が手を乗せてくる。


 「私だったら何も問題ないよ。なんなら、このまま行くとこ行ってもいいし」


 強気な視線でジッと見つめられる。


 武正の誘いに揺るがないということはなかった。


 武正の言うとおり、僕は健全な普通の高校生だ。


 そういった欲は人並みに持ってはいる。


 そういう意味では武正の言葉には僕にとって魅力であることが存在していた。


 でも、僕は武正の手を離した。


 「いい」


 首をゆっくり振りながら答えた。


 「ちゃんと考えろよ」


 「考えたよ」


 「もっと考えろよ」


 「同じだよ」


 静かな視線を向けた。


 弱々しいものじゃなく、定温を保ったものを。


 「変わらないんだ、僕の気持ちは」


 ムキになるわけじゃなく、淡々と告げた。


 「一生、今のまんまかもしんないんだぞ。手にぎったり、キスしたりするしかない、


それだけの」


 「充分だ」


 強がりも込めて言った。


 本当に充分だとは思ってないかもしれない。


 ただ、武正の誘いに魅力を感じてるのも一時の迷いかもしれない。


 それなら現時点での僕の大切なことを考えればいい。


 「本気かよ」


 「あぁ」


 時間はそう必要ない。


 僕にとって大切なのは加奈子ちゃんなんだから。


 「もういい」


 諦めたように言い、武正は立ち上がった。


 「隙があったらいつでも奪ってやっかんな」


 そう言い捨てて、そこを去っていった。




 武正との話が終わると、病院には寄らずに加奈子ちゃんの家に向かった。


 今日のうちに退院するので、きっと今はここにいるはずだから。


 年末年始はオバさんの実家で過ごすから明日にはここを出発してしまう。


 けど、昨日の武正との話でおそらく加奈子ちゃんは傷ついてると思う。


 今日のうちに話しておかないといけない。


 インターホンを鳴らすとオバさんが出てきて、すぐに加奈子ちゃんを呼びに行ってく


れた。


 少しすると加奈子ちゃんが来て、そのまま外へ出かけた。


 歩いてる間は退院や体調について話をして、いつものように近くの川辺まで出ると座


って話を進めていく。


 「昨日、武正が来たんだってね」


 「うん」


 浮かない表情で返された。


 「大丈夫だった?」


 「うん」


 言葉に感情が追いついてない。


 「ごめんね」


 とりあえず素直に謝った。


 加奈子ちゃんをこうさせてるのは紛れもなく僕のせいだから。


 「どうして大和くんが謝るの」


 「悪いのは僕だ」


 「大和くんは何もしてないんでしょ。あの人が勝手にしてることなんでしょ。なら、


何も悪くなんかないじゃん」


 加奈子ちゃんの言葉に返答できなかった。


 僕がこういう状況を作りだしてることは事実だから。


 何もしてない加奈子ちゃんを悲しませてることに謝りたかった。


 そして、僕はさっき武正との間にあったことを伝えた。


 昨日の武正と加奈子ちゃんの話を聞かされたこと、関係を近づけたいとまた言われた


こと、それを断ったこと。


 たぶん、これで今までのように迫られることはないだろうことも。


 「本当に?」


 「うん」


 そう言っても、加奈子ちゃんはまだどこか沈んでいた。


 「悪気はなかったと思うんだ。なんていうか、ああいう子もいるってことだよ。僕ら


みたいなゆったりしたタイプもいれば、あいつみたいな自由なタイプもいるっていう。


だから、あんまり気にしないで」


 そう言いくわえると、加奈子ちゃんは小さく「うん」とうなずいた。


 今回のことが加奈子ちゃんに重荷になってほしくない。


 僕の方で起こってしまったことだから、深く受けとめられるとこっちにも重くなって


しまう。


 「ごめんね」


 今度は加奈子ちゃんから言われた。


 当然、言葉の意味は分からない。


 「私のせいでいろんなこと無理させちゃって」


 「何言ってるの?」


 「実はね、あの人の言ったとおりなんだ。大和くんは普通なのに、私がいるから他の


人たちと同じことができないんだよね。私と一緒にいるからゆっくりしないといけない


し、やりたいこともやれないし、しなくてもいい心配しなきゃなんないし。もう、迷惑


ばっかだよね」


 加奈子ちゃんは笑顔を作って言葉を続けていた。


 なんとか明るくいようとしていたけれど、どんな気持ちで言ってるのかは僕には手に


取るように分かった。


 「そんなふうに言わないで」


 加奈子ちゃんの肩に手を置いて言った。


 その肩は今にも揺れそうだった。


 「本当はね、大和くんを自由にさせてあげるのが一番いいって分かってるの。私が自


分のわがままで大和くんを縛りつけてるんだって。それに無理やり付き合わせてるんだ


って」


 言いながら、加奈子ちゃんの瞳から涙が流れていく。


 「でも、私、大和くんが好きだから」


 涙声で細くなっていくのを見てられず、肩にあった手を引いて抱きしめた。


 「離れてほしくなんかないし、そんなこと言えない」


 腕の中にいる加奈子ちゃんの辛さが少しでも去っていくようにする。


 「大丈夫。僕はこのままでいいんだ」


 僕らは僕らの中で順風満帆なんだと思ってた。


 けど、それは外から見たらそうではなかった。


 でも、それでいいんだ。


 僕らは僕らなんだから。


 「だから、加奈子ちゃんは何も心配しなくていいから」



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