表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/31

その19



○登場人物


  宮尾大和・みやおやまと(特に何かに秀でたこともなく毎日を生きている)


  橋山加奈子・はしやまかなこ(生まれつき病気を抱えたまま生きている)


  南江くるみ・みなみえくるみ(加奈子の友達で良き理解者)


  山津高志・やまづたかし(大和の小学校からの友達)


  村石樹・むらいしいつき(大和の中学校からの友達)


  武正七恵・たけまさななえ(大和の高校の同級生、自由人で大和を気にかけてる)


  橋山達夫・はしやまたつお(加奈子の父親、医者で加奈子の病気を気にかけてる)


  橋山時枝・はしやまときえ(加奈子の母親)





 寒さは日に日に増していき、冬は本番を迎えていた。


 今年も街並みは人や光でせわしく動いている。


 今年のクリスマスイブは終業式と重なったので、加奈子ちゃんとはその後に会った。


 去年とさほど変わらない、普段ともさほど変わらないものだったけど僕らにはそれで


よかった。


 そのままの流れが僕らには心地良く、この先も波乱みたいなのは無縁なものだと決め


こんでいた。


 けど、それはすぐにやってきてしまった。


 次の日のクリスマス、この日も去年と同じように武正と約束をしていた。


 例のように、イブはお互いに相手がいるからっていうことで。


 映画を観て、昼食を食べて、買物に付き合わされ、いつものパターンでいつものよう


に振りまわされていく。


 そして陽も暮れはじめてきたころ、買うものが決まって会計をしてる武正を残してシ


ョップから出ると線路沿いの金網にもたれた。


 女子の買物に付き添うのは毎度疲れてしまう。


 武正みたいなタイプだとなおさら。


 「大和くん」


 力が抜けてるところに聞きなじみのありすぎる声が来た。


 そこにいたのは加奈子ちゃんだった。


 「何してるの、こんなとこで」


 背筋がピンと伸びるような思いがくる。


 武正のことは伝えたことがないから急な展開に迷って。


 「いや、そっちこそ」


 「私、くるみと買物してたの。くるみは塾あるからって帰って、私もそろそろ帰ろう


かなって」


 偶然に会えたことを喜ぶように加奈子ちゃんは笑顔になっている。


 「大和くんは?」


 そう聞かれて、返答に困る。


 どう返せばいいのか、今すぐ通行人の誰かに教えてほしい。


 「宮尾、先に出るなって」


 そのとき、買物を終えた武正が来てしまった。


 当然のごとく、加奈子ちゃんは武正に気づき、武正は加奈子ちゃんに気づく。


 そこに状況の解明を求める一瞬の沈黙が流れる。


 僕にとってはたまらない一瞬だ。


 別に何もやましいことはないはずなのに、実際にはかなりの焦りが起こっていた。


 「誰?」


 開口したのは武正だった。


 武正と加奈子ちゃんには疑問の表情が浮かんでて、全て自分は知っている。


 それをどう説明しようか。


 やましくないんだから正々堂々と言えばいいのになぜかためらいがあった。


 「あっ、もしかして彼女?」


 返答に戸惑っていると、武正が正解を発した。


 「へぇ、かわいいじゃん」


 そう観察するように武正は加奈子ちゃんを見ていく。


 当然、この感じに免疫のない加奈子ちゃんは困っているようだった。


 「私、武正七恵。同じ高校の友達。よろしくね」


 そう手を差し出したので、なんとなく流れで加奈子ちゃんも手を出して握手した。


 一応、友達とちゃんと説明してくれて助かった。


 「この人さ、自分のことをあんまり喋りたがんないから。どんな子なのかなぁって思


ってたんだけど、やっと会えた」


 喜んでる武正に対して、加奈子ちゃんはまだうまく状況を掴めてない様子だった。


 武正は僕に彼女がいることは知ってるけど、加奈子ちゃんは今初めて武正の存在を知


ったわけだから温度差があるのは仕方ない。


 僕はややこしくならないように出来るだけ首を挟まず、この時間が過ぎてくれるのを


待っていく。


 「ねぇ、宮尾のこと好き?」


 畳みかけるように武正は聞いていく。


 「やめろよ」


 「いいじゃん、別に」


 軽く止めてみても、お構いなしに続けていく。


 返答を待つ武正に、加奈子ちゃんは黙ってしまう。


 この状況を掴みきれてないうえに、こんなにズカズカと初対面の人間に踏みこまれた


らそうもなる。


 「言えないの? 好きなんでしょ」


 そんな気持ちを知ってか知らずか、どんどん武正は付け入っていく。


 さらに、明らかにさっきより語調が強くなっていた。


 「もういいだろ」


 遮るように制すると、武正はこっちに強めの視線を向けてきた。


 おかしいと思ったときにはもう遅かった。


 「私なら言えるよ」


 そう言って迫ってくると、突然キスされた。


 金網に抑えつけられ、強引に唇を押しつけられていく。


 いきなりすぎて訳が分からず、抵抗力は失われていた。


 その中で、視界の中に加奈子ちゃんもいくらか映っていた。


 何が起こってるのか理解できず、体の力が抜けてしまってるようだった。


 そのうち、居たたまれなくなって加奈子ちゃんは逃げるように去っていった。


 圧倒的にまずいのはすぐに判断がついた。


 なんとかしないと。


 その思いで我に返り、武正をどうにか自分から離した。


 追いかけようとすると、武正に肩を持たれる。


 「行くなよ」


 普段のおちゃらけたものじゃなく、まっすぐに向けられた言葉だった。


 真剣な感情であることは分かった。


 ただ、こっちはそれどころじゃない。


 それでも行こうとすると、今度は腕をグッと掴まれる。


 「ここにいろよ」


 冷静に状況を把握するのは難しかったけど、武正の視線の強さは本気だった。


 どういうことなのか判別はしきれないけど、そこに嘘偽りはないのは伝わってきた。


 武正は捕まえるように僕に抱きついてくる。


 「ここにいろって」


 そう言いこぼし、抱きしめていく。


 そこにある強い感情はちゃんと伝わってきた。


 でも、それは加奈子ちゃんに勝るものじゃあない。


 行かなきゃいけない。


 「ごめん」


 振り払うように武正を離して、その場を去っていく。


 加奈子ちゃんにきちんと説明しないと。


 走りながら向かったのは駅だった。


 さっき、帰るつもりだと言っていたからここだろうと思って。


 すると、駅の外から遠くに加奈子ちゃんの姿が見えた。


 一点を見るようにうつむいている。


 そこから急いだものの、電車が来てしまって追いつけなかった。


 すぐ次の電車に乗って追いかけたけど、結局加奈子ちゃんの家までに見つけることは


できなかった。


 電話をかけても出てもらえず、このときは諦めるしかなかった。


 無理に家まで訪ねて、会ってもらえなかったらオジさんやオバさんにも不穏な空気が


感づかれてしまいそうで。


 それからはただ現実に打ちひしがられる時間が続いていった。


 帰りの道も帰ってからも絶望感ばかりに襲われていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ