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その18



○登場人物


  宮尾大和・みやおやまと(特に何かに秀でたこともなく毎日を生きている)


  橋山加奈子・はしやまかなこ(生まれつき病気を抱えたまま生きている)


  南江くるみ・みなみえくるみ(加奈子の友達で良き理解者)


  山津高志・やまづたかし(大和の小学校からの友達)


  村石樹・むらいしいつき(大和の中学校からの友達)


  武正七恵・たけまさななえ(大和の高校の同級生、自由人で大和を気にかけてる)


  橋山達夫・はしやまたつお(加奈子の父親、医者で加奈子の病気を気にかけてる)


  橋山時枝・はしやまときえ(加奈子の母親)





 2年生になると、しばらくは落ち着いた日々が続いた。


 落ち着いたといっても、これまでと変化はないという意味で。


 加奈子ちゃんには体の調子の良し悪しが常に着いていたし、その分自由の効かない毎


日を送る必要がある。


 会える時間が少なくなった分、僕の目に映ることも少なくなってるけど確実にそれは


存在していた。


 そして、心配の種でもある行事がやってくる。


 修学旅行だ。


 本来なら待ち望まれるはずの行事だけど、僕らにとっては違ってくる。


 家族と遠く離れたところへの旅行は不安要素がいくつも生まれるから。


 長距離の移動もあるし、多くの生徒たちの中でそう多くない教師側の目が届くかどう


かも懸念される。


 一応、学校側も最大限の努力はすると言ってくれてるらしいから、それを信じるしか


ない。


 中学までは僕も一緒にいれたけど、今回はそうじゃない。


 南江に任せるしかなかった。


 「よろしく、加奈子ちゃんのこと」


 「うん、大丈夫だから」


 真剣に頼むと、なぜか笑いこぼされた。


 「宮尾に頼みごとされると変な感じ」


 「あのなぁ」


 「嘘、嘘。気にしない」


 困ったもんだったけど、このぐらい気楽な方がいいのかなとさえ思えた。


 その結果として、特に大きな問題はなく加奈子ちゃんは修学旅行を終えられた。


 気分が優れないくらいのことはあったものの、これというほど支障をきたしたりはし


なかったらしい。


 加奈子ちゃんからも「楽しかった」と聞けて一安心できた。


 その次の週には僕の修学旅行もあった。


 こっちのは別に何があるわけでもないけど。


 でも、変化の前兆のようなものは起こっていた。


 それに気づくのはもっと後になるけれど。


 3泊4日で広島に行って、その3日目の夜だった。


 こういうとき、宿舎では就寝後も寝ないで語り明かすみたいな風習があって、僕の部


屋でもなんとなくそれはあった。


 1日目はそこそこ長く喋り、2日目は反動ですぐに寝て、3日目は最後だからとまた


頑張って起きていた。


 すると、急にドアの開く音がした。


 先生かと思って警戒してると、入ってきたのは武正だった。


 寝巻き姿で近づいてくると、僕の腕を引いてきた。


 「宮尾借りるよ」


 周りの男子にそう言うと、腕を引かれていく。


 「布団どれ?」


 そう聞かれ、訳も分からないまま答えると、武正はその布団に「よっこいしょ」と入


ってった。


 「何してんの」


 「ウチの部屋の女子ね、30分交代で男子のところに行くっていうのやってんの」


 布団から上半身を出して、他の男子に聞こえないぐらいの声で武正は言った。


 武正に布団を占領されたので、僕は適当に側に座る。


 向こうでは他の男子が様子をうかがっていた。


 「結構スリルあるよ、ここまで来んの」


 そういう問題じゃない。


 いっそ、見回りの先生に見つけてほしいぐらいだ。


 未だに、武正は定期的に僕のところに現れては自由にやっていく。


 この修学旅行の間でも、行く名所の先々で「宮尾、写真」と半ば強引に記念撮影に付


き合わされる。


 休日に遊ぶこともいくらかある。


 向こうの誘いを断りきれず、まぁ彼氏がいるんならいいだろうと押しきられるのが常


になって。


 向こうから彼氏の話をしてくることはあまりなく、こっちから聞くこともないけど今


も続いてるようだ。


 ウチの学校じゃない高3ってことは聞いたけど詳しいことは分からない。


 「温かいなぁ、布団。このまま寝ちゃおうかな」


 武正は肩先まで布団にくるまっていく。


 そんなの勘弁してくれ。


 もし、先生にでも見つかったらタダじゃすまない。


 厳重に注意されるどころか、周囲にはやしたてられるのは間違いない。


 そんなもん、たまったもんじゃない。


 「自分のとこで寝なよ」


 「えぇっ、めんどくさい」


 だったら、ここまで来なきゃいい。


 見つかったほうがよっぽどめんどくさいし、それにこっちまで巻き込まないでもらい


たい。


 「こっちが寝れないでしょ」


 「一緒に寝る?」


 笑みを含ませて、布団の片方を開けてきた。


 完全におちょくってる。


 このまま言い合っても、ことごとく振り払われそうだ。


 どうやって帰ってもらおう。


 「宮尾、彼女とはどう?」


 どうしたもんかと思ってると、ふと言われた。


 「うまくいってんの?」


 「まぁ」


 なんとなく返しておく。


 「へぇ。良い子なんだろうね、きっと。宮尾の彼女になってくれるぐらいだから」


 うるさい。


 良い子なのはそうでも、後のはいらない。


 「キスとかしてんの?」


 何言うんだ、いきなり。


 「さぁ」


 適当にはぐらかす。


 「じゃ、エッチは?」


 「さぁ」


 真剣に答えるに値しない。


 「たまにはしてあげなよ。女子からはしにくいんだから」


 いい迷惑だ。


 そうだとしても、わざわざ武正に言われたくはない。


 「でも、宮尾がそういうのしてると思うと笑える」


 本当に武正は笑ってた。


 こんなのに慣れてしまうくらいに日常的なものになってしまってるのが嫌なもんだ。


 まったくもって慣れたくなんかはない。



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