不機嫌な彼女
今回はちょっとだけ長いです。
ご指摘・ご感想お待ちしています。
生徒会長は、あの戦いの決着にあっさりと納得し、俺に危険な攻撃をしてしまったことを詫びた。あんな終わり方は認めないかもしれないとも思ったので、聞いてみると、
「たとえ貴方に大事がなかったとしても、自分がしでかしそうになったことはしっかり理解していますし、なによりあれで負けを認めないようでは、この学園の生徒会長なんてやっていられません」
とのことである。俺に謝ったあとは生徒会の仕事に戻り、怪我をした学生への対処や生徒会のメンバーと思われる人たちに指示を出すのに忙しそうだった。
そして、今俺はどこにいるかというと…学園内にある医務室だった。なんでこんなところにいるかというと、会長にやられた左腕の治療のためである。俺としては、少し痛むものの、別段問題はないため放っておいてもよかったのだが、ミザが問答無用に俺を引っ張ってきたためにここにいるというわけである。
そんな俺を連れてきたミザはというと、俺の左腕に包帯を巻いているところだった―自分は今とっても不機嫌ですと言わんばかりの顔をしているというおまけ付きであるが―であるため、今この医務室内の空気は非常によろしくない。さきほども、上級生らしき女子生徒が新入生と一緒に入ってきたのだが、ミザの発するオーラと表情を見て即座に回れ右をして出て行った。以前、仲間の一人である男が、
「いや~、美女ってのはどんな表情であっても美しいね。もうあれだ、美女は神が創り出したこの世界で唯一の宝だね!」
なんて言っていたのを思い出すが、はたしてあいつは今のミザを見て同じことが言えるだろうか?容姿が整っているため余計に怖いのである。さらに、この医務室に入ってから今までミザは一切しゃべりかけてこない。黙々と俺の治療を進めるだけである。怒ってくるなりしてくれればこちらも謝るなどの対応ができるために楽であるのだが…。などと考えながら医務室を見回す。校医は講堂の方へ行っているのか医務室に入った時には既にいなかったし、治療に来る生徒も先ほどの女生徒のように即座に出て行ってしまう。そのため、ここには俺とミザだけなのであるが桃色な空気など窓を全開にして換気しました!!と言わんばかりに存在していない。まあ、ミザに迫られるなんてことを想像してみてもうまくいかず、機刃を構えたミザに別の意味で迫られるのなら簡単に想像できるのだけどな、なんて馬鹿なことを考えていたところに、
「終わりました」
という簡潔なミザの言葉に意識を戻す。左手には丁寧に包帯が巻いてあり、動かしてみても邪魔にならない。
「ありがとう、ミザ。それと…悪かったな」
片づけをしているミザにお礼と謝罪をする。ミザに心配をかけたから不機嫌になっていると思ったので謝ったのだが、
「いえ、マスターが悪いわけではありませんから」
という彼女の返事に首をかしげる。彼女の言葉を信じるなら俺のせいで機嫌が悪いというわけではない。では、何が原因で不機嫌になっているのだろうか?考えてみるが分からないので、直接ミザに聞いてみる
「俺がミザに心配をかけたことが不機嫌の原因ではないとすると、何が理由で不機嫌になっているんだ?」
俺の問いかけに答えにくいことでもあるのか、口を開きかけては閉じという行為を二、三度繰り返してから、溜め息を吐いて話し出した。
「私が怒っているのは、先ほども言いましたようにマスターが原因ではありません。私自身とあの牛乳女です」
「いや牛乳って…」
思わず突っ込んでしまったがおそらく会長のことだろう。
「あの牛乳女はマスターを危険な目にあわせておきながら謝罪1つだけで済ませました。今度あったらただじゃおきません」
「いやいやいや、戦闘を吹っ掛けたのは俺だし、戦いに危険はつきものだろう?それに治療もしますと言ってきてくれたんだが忙しそうな生徒会の人たちを見て俺が断ったんだ」
「そうですか…ではあの女が個人的に気に食わないので今度あったらただじゃおきません」
「いやいやいや!!なんで納得しないかな!?しかも気に食わないからとかどこの不良だよ!!」
俺の説明を聞いて会長への怒りが少しでも無くなるかと思ったが、気に食わないときたか…。普段、ミザは俺以外の人に対してはほとんど感情を出すことが無いので少しうれしくはあるのだが、それがこのような感情であるというのはいささか複雑な気持ちになってしまう。
「マスター。あの女は今日から私の敵としますので」
「…そう」
今後、生徒会にはなるべく近づかないでおこうと内心で呟く。
「会長に怒った理由は分かったけども、自分自身に怒っているというのは?」
「それは…」
俺が思い返してみても入学式の騒動の時のミザに落ち度はなかったと思うのだが…。
「すいませんでしたマスター。私の判断ミスの所為で怪我をさせてしまって」
「ん?判断ミスの所為で怪我?」
怪我というのは先ほど治療してもらった左腕のことだとは分かるのだが、判断ミスというのはなんのことなのかさっぱり分からないので聞いてみる。
「私が安易に壇上に行くことを決めずにあの場で戦っていれば、おそらくではありますがマスターが怪我をすることは無かったでしょう。マスターに手傷を負わせることができる者などそうそういませんから。しかし、あの時私は大人数を相手にするよりも1人を相手にした方が楽であると判断し壇上に行くことにしたのです、この学園の生徒会長であるということを考えもせずに…」
そう言ってミザはうなだれてしまう。壇上に行くことを提案したのも、会長と戦う際に手を出さないように事前に言ったのも全部俺であるため、ミザが責任を感じることはこれっぽちもないのであるが、こういったミザを見るのは数えきれないぐらいなので、溜め息を吐いて常々考えていたことを言う。
「あのなミザ。お前は俺に何かあるとすぐに自分に責任があると考えるよな?俺のことを一番に考えていてくれるのは嬉しい」
「マスター…」
なぜか照れ出すミザ。何故?と内心首をかしげ続ける。
「だけどな、俺はお前の重荷になりたくないし、縛りつけたいだなんて思っていない。」
「そんな!私はマスターを重荷になんて!!」
「ミザが思っていなくても俺がそう思えてしまうんだよ。だからさ、ミザ。そんな風に俺に思わせないためにも、全てが自分の責任だなんて考えないでくれよ。今回のことであれば悪いのは全部俺だし、ミザが責任を感じる必要はないんだからさ」
「…はい」
ちょっと卑怯な言い方かとも思ったが、ミザを納得させるためにもしょうがないと自分に言い聞かせる。
少ししゅんとしているミザの頭を撫でて立ち上がる。
「怪我の手当ても終わったし、明日からの授業の準備もあるからそろそろ下宿先に戻ろうか」
「はい、マスター」
頭を撫でられて機嫌が良くなったのか、調子が戻ったミザと医務室を後にした。
複線をちょこっとだけ出して話はあまり進まずに終了です。次回あたりは設定が出てくる回になりますので、話はあまり動かない予定です。