平等的出産装置③
「ねぇ聞いてよ、本当に痛くなかったんだってば」
リビングで夕食を作りながら、妻は言った。
そういえばこいつはあの機械を知らないんだった。
「でも、そういうの聞いたことあるぞ?『痛くなかった』って。」
「・・・・・・ふーん。でも、良かった。」
あの機械のおかげか、妻は血も何も出ずに出産を終えた。
そのためか入院はせず、家に帰ってきた。
赤ん坊は病院。
「夕刊でーす」
と、玄関から新聞屋の声。
「はーい」
妻がにこやかに玄関へ歩いていった。
その時、
「ええ、入院!?」
と、妻の声。
小さく会話の声が続いた後、戻ってくる妻。
「どうしたんだ?」
とりあえず聞く俺。
「新聞配達の人が変わってたから、『前の人はどうしたの?』って聞くと、『入院した』って・・・・」
青ざめながら、言う妻。
ちなみにその『新聞配達の人』は妻の幼馴染で、いつも夕刊を届けにきては妻と親しげに話していた。
前なんかは家に入れて紅茶を出したりなんかもしていた。
「なんで、入院なんかしたんだ・・・・・?」
「それが・・・・・」
ソファに寝転がりながら、こっちを向く妻。
「・・・・・いきなり股間押さえて『ウウッ』て呻いたんだって・・・・・それでお医者のところ行ったら・・・・・」
「行ったら・・・・?」
「・・・・・・金玉、潰れてたんだって」
ショックのせいか躊躇せずに、妻はそう言った。
「・・・・?何故いきなり・・・・・」
ハッ、と私は思った。
私はあの装置で痛みを受けなかった。
妻も、あの出産で痛みを受けなかった。
それはあの医者が妻にくる全ての『痛み』を俺に回した結果だ。
『すべての痛み』を、『赤ん坊に精子を与えた者』に回した結果。
・・・・・・私は全てが悲劇へと繋がりそうになった思考回路を、
「・・・・・それは気の毒だな」
とりあえず、切った。
お読みいただき、ありがとうございます。
今思えば、わざわざ三つの話で構成しなくても良かったかも知れません。
関係ない話ですがこの医者が個人的には大好きでした。